11.そしてみんな動かなくなった その1
9月24日
「ん、もう朝か」
日曜や休日は、起こされなくても不思議と早く目が覚める。昨夜は寝苦しいと言うこともなく、久しぶりに気分のいい朝だった。
頬に手を当てる。さすがに一晩安静にしていたので、腫れは引いてきている。
一度大きくのびをしてから、部屋の床に目をやると、鏡介が無防備な姿で寝息を立てている。
うーん、俺の寝顔ってこんななのか。そのだらしなさに朝からちょっと悲しくなったが、気を取り直してベッドから降りると、起こさないようそっと部屋を出た。
廊下に出ると、いつもどおりヒビキのイビキが聞こえた。ドア越しでもこれなんだから、同じ部屋で寝たらどのぐらいうるさいんだろう。どっかのバイク屋に頼んで、排気音を小さくしてもらったほうがいいかもしれない。
下につくと、トントントントンというまな板の音と、暖かい味噌汁のにおいが漂ってきて、腹がぐうと音を立ててしまった。
キッチンを覗くと、白い着物に黒い髪の、季節外れな雪女が、シンクに向かって何かを刻んでいるところだった。
「あら将仁くん。随分と早起きね」
その着物の女、レイカがこっちに気づいて。声をかけてくる。
「ごめんなさい、朝ご飯はまだ出来ていないの。あと10分ほど待って」
「あ、いいよいいよそんなに急がなくても」
レイカのことだから、早くやってもらっても問題ないんだろうが、ここはそう言っておく。なにしろ今日は日曜、急ぐ必要は全くないのだ。
「ん、こいつもよく寝てるなー」
その足でリビングに向かうと、そこに置いてある段ボール箱をしゃがみこんで覗く。中では、金色のふさふさした毛をした子狐、魅尾が、とぐろを巻いて寝ている。
狐ってのは夜行性だと思うんだが、俺はこいつが箱から自力で出たところを見たことがない。その気になれば出られないほどの高さでもないと思うんだが。
思い返すと、昨日はシデンがこいつを引っ張り出して抱いたりじゃれたりしていたな。それで疲れたのかな?
「ま、寝る子は育つって言うし」
育って大人の狐になろうが野生に返ろうが俺は構わないが、それ以前に早いとこ元気になって、ちゃんと予防接種とかを受けてもらいたいもんだ。
「あ、将仁さん。おはようございます」
背中を軽くなでてその手触りを楽しんでいると、今起きてきたらしいテルミが、俺を見つけて驚きながらもぺこりと挨拶をしてくる。まあ、いつもなら起こされるまで寝てるヤツが何の前触れもなく早起きしたんだから驚かれてもしょうがないかな。
「ああ、おはよう」
「ええと、何か見るのでしょうか?」
「いや、いいよ。メシもまだだし」
そして立ち上がる。
「ちょっと新聞取ってくる」
「えっ、あ、私が取って来ましょうっ!」
すると、まだちょっと眠そうだったテルミが、目を見開いて速攻でそう答えてきた。
「・・・・・・そうか?じゃあ、雨戸でも開けて・・・・・・」
「そ、それも私の仕事でしょう!将仁さんは、大人しくしていてほしいのでしょうっ!」
俺がなにか手伝おうとすると、テルミは目をむいて止めさせようとする。こいつは、まだ俺が「勝手に擬人化能力を発動させる」ことを恐れているらしい。
「あのな、テルミ。俺だって多少の学習能力ぐらいはあるぞ?何をやったら発動するかの推測ぐらいできるって。だいたい、紅娘が最後に現れて、何日経ったと思ってるんだ?」
テルミはそう言い切った俺をうろんな目で見ている。俺の言うことがそんなに信用できないのだろうか。確かにうちの擬人たちはみんな無意識で呼んでいるが、さすがに9回もやれば傾向は判る。
だから、これ以上何かあったらそれは俺のせいじゃないぞ。
「んじゃ新聞取ってくる」
そんな目をするテルミを尻目に、俺は玄関へ行って、サンダルがないのでスニーカーを履く。
「心配すんなって」
不安なのかそこまで追いかけてきたテルミにそう言って、俺は外に出た。
どうも、作者です。
年が明けて、ようやく再開となりました。
タイトルを見て、なんのこっちゃと思った方もいるかもしれませんが、しばらくお付き合いください。




