10.なにがお嬢様だ その26
「そういえば常盤さん。六角って家、知ってます?」
その話の中で、鏡介がふと聞き覚えの無い名前を言った。六角とはまた変わった苗字だな。
だがその瞬間、常盤さんの動きが止まった。よっぽど、聞き覚えがある名前みたいだ。
「おい鏡介、誰だよそれ?」
「あ、パーティーに来ていた人で、ちょっと話をしたんです。そこで、代々西園寺の補佐をしている家系だって言ってたんで、本当かなと」
「えっとね、こんな人」
ケイが、その六角という奴の写メを見せてくれる。鼻筋が通ったイケメンだ。ただ、目つきの鋭さが、裏で何かやってそうな感じをかもしている。
「・・・・・・常盤さん、知ってるんですか?」
「・・・・・・ええ、知っています」
常盤さんは、箸を置きながら、すっごく真面目な顔で俺の質問に答えた。
「鏡介さんが仰る通り、六角家は古くから西園寺家に仕え、補佐役を担ってきた一族です」
どうやら、本当らしい。マンガとかだと、お金持ちによくある設定だが、そういうのが実在すると言われると、凄いなと思うと同時に、生まれたときからそういう役目を負わされるのがちょっと気の毒な気もする。
「ですが、今はそうではありません」
だが、常盤さんはさっき自分が言ったことを速攻で否定した。
「違うとはどういうことだ?下克上でもしたというのか」
同じようなことを思ったらしいシデンが、尋問みたいな口調で問い返す。だがいくらなんでも下克上は昔過ぎるだろう。常盤さんの言葉から推測するに、“そうではなくなった”のはそんなに昔じゃなさそうだし。
「ええ、見方によってはそうかもしれません。彼、六角隼人の父親、六角幸四郎は、一族を引き連れ、西園寺の下を離れましたから」
「それって、首にしたんじゃないのか?」
「そのようなことはありえません。傍から見たらそう映ったとしても、そうなる原因を作ったのは六角家のほうです」
なんでも、その六角幸四郎という男は、俺の実の母にあたる先代の西園寺静香にちょっかいを出してふられ、それでもしつこく迫って、ついに本格的に嫌われ、傷心して西園寺を去ったんだそうだ。
なんつー女々しい奴。そんなのが補佐してたんじゃ、西園寺の家が滅ぶのも当然だ。
しかし、今になって声をかけてくるってことは、やっぱり西園寺の補佐に戻りたいのかな。
「ただね、その隼人さんッスけどね。なんか妙なことを言ってたんスよ。常盤さんのこと、注意したほうがいいって」
そのことに気がついているのかいないのか。鏡介は飯を食いながら言葉を続けた。
「注意って、なんだ?」
「聞く必要はないと思いますよ?正直言って、その隼人さんって人の話って、将仁さんにあることないこと吹き込もうとしてるのが見え見えでしたから」
珍しく、鏡介が否定的なことを言う。
「へぇ。そいつのほうがずっと怪しいんじゃないのかい?」
「そうですねぇ」
ヒビキやクリンがそれに賛同する。まあそれは俺も否定しない。確かに、今の俺にはその六角って奴より常盤さんのほうが、一緒に暮らしているわけだし、ずっと信頼できる。
「けど、その六角って奴の素性ははっきりしてるんだろ?西園寺家の補佐に戻りたいって言うなら、もどしてやってもいいんじゃないか?」
「私は反対でしょう」
最初に口を開いたのは、以外にもそういうことを一番言わなさそうなテルミだった。
「将仁さんも仰ったでしょう、そんな奴が補佐をしていたら滅んで当然と」
「そうね。将仁くんが落ちぶれて不幸になるのは、私としても見たくない姿だから」
「うむ。そもそも、自分で嫌だから離れたというのに今更戻ろうとするその根性が気に食わぬ」
それに続いて、口々に俺の意見を拒否にかかる。会った事もないのに、六角って奴のことが相当気に食わないらしい。まあ、俺もそこまでして戻してやる義務も、義理もないよな。俺は、カレイの煮つけを口に運びながらそんなことを考えていた。