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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
10.なにがお嬢様だ
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10.なにがお嬢様だ その24

「よし、判った。ヒビキ、バレンシアの体を起こしてくれ」

「あいよっ!」

腰を上げたヒビキが、身をよじるバレンシアの肩をつかんで起こす。

床に転がされていたにもかかわらず、バレンシアの胸は微塵も歪んでいない。普通なら背後からの痛い視線にもめげず見続けるんだが、今日はソレが目的じゃない。

バレンシアのブレザーの右の襟には、三角形と一本線、わかりやすく言うとCDやDVDプレイヤーの取り出し口を開閉させるボタンに書かれているマークが書かれている。そしてその襟元には、ディスクが1枚入る程度のスリットがある。

実は、テルミのエプロンのポケット同様、ここがバレンシアのディスクプレーヤーの入り口なのだ。

「効いてくれよ」

祈るような気持ちで、そこに近衛のディスクを差し込む。

すると、今まで体をよじっていたバレンシアの動きが、まるで硬直したかのようにぴたりと止まった。

「ど、どうだ!?」

俺の後ろから、モノたちがこわごわという感じで覗き込む。

「ん゛―――――――!ん゛――――――――――――!」

と、突然、バレンシアが再び暴れだした。しかもその暴れ方が尋常じゃない。今までは体をよじる程度だったのが、今度は文字通り全身でのた打ち回るほどの暴れっぷりなのだ。

あまりに急だったため、ヒビキでさえおさえられない。

「お、押さえつけろ!」

とっさに叫び、同時に飛びかかる。そして俺の後ろからモノたちが一斉に飛びかかり、押さえつけにかかる。

「ん゛―――――――!ん゛――――――――――――!」

火事場のバカ力とでも言うのだろうか。我が家一番のインドア派で頭脳労働者なバレンシアが、ヒビキに男2人を混ぜた8人がかりででも抑えきれないほどの力で暴れている。

「落ちつけ、暴れるなバレンシア!」

暴れるバレンシアを懸命に押さえつけながら、俺は必死になって語りかける。

その甲斐があったのか、それともさっきのディスクに入ったプログラムが本当に効果があったのか。バレンシアの動きが、少しずつではあるが大人しくなってきた。

やがて、バレンシアはピクリとも動かなくなった。

「お、収まった、か?」

動かなくなったのを見て、みんながそろそろと離れていく。

「・・・・・・ん、んー・・・・・・」

息を呑んで見守っていると、バレンシアが、まるで今目覚めたような声を出した。

「ん、んん?んーん、んんんんんっ?」

そして、さっきまでのワケのわからない声とは違う、普通に喋っているのにさるぐつわを噛まされているために聞き取れないという様子の声が、バレンシアの口から聞こえてきた。

「ぷはーっ、very chokingだったデース」

「おい、バレンシア、大丈夫か?」

「そーのvoiceは、Masterデスか~?Why ミーがbindされているデース!?」

「なんでって、貴様、覚えておらぬのか!?あれだけ暴れて迷惑を掛け捲ったことを」

「Whatをsayするデース!?In any caseとにかく、このblindfoldをtake offするデース、I can’t see anythingデース!」

どうも話がかみ合わない。覚えてないのだろうか。

「Hey, Master!Why ミーがbindされているのか、explain(説明)するデース!」

目隠しを外したバレンシアの目は、はっきりとした意思が込められた、いつもの蒼い瞳になっていた。

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