10.なにがお嬢様だ その22
気付いたバレンシアがこちらを向く。幸い、さっきクリンに放ったおかげで電撃は飛んでこない。
「くは!?」
体勢を低くし、体当たりでバレンシアのことを部屋の壁に押し付ける。なんか肩に柔らかい感触があったが、今回ばかりは楽しむ余裕は無い。
「じれ8wれt0れkmhtrhをpsdtrwy!」
「ぬぅっ!」
押さえつけられたバレンシアが叫ぶ。電撃を放ったらしいが、その電撃は俺の横を通り過ぎ、シデンが持っている避雷針へ飛んでいく。
そして。
「すんまへんな」
俺がバレンシアを押し付けた、その壁からあの黄色い女の手と頭が出てきて、バレンシアの髪の毛と片手を掴んで身動きを、特に首の動きを封じる。
「うまいぞ」
ほとんど説明をしなかったにも関わらず、二人とも思ったとおりに動いている。その隙に、俺はメガネを取り出してつるを伸ばす。
「悪いな、乱暴して」
電撃が収まったタイミングを見計らい、バレンシアの顔を覗きこんで声をかける。白く光る目が俺を見たような気がする。
そこに、彼女愛用の丸眼鏡をかける。バレンシアは、あっさりとメガネを掛けられてくれた。
そして、俺の仮定は、どうやら正解のようだった。
ワケのわからない雑音をわめきちらし、じたばたと暴れようとするのは変わらないのだが、電撃を発射することは無くなったのだ。
「な、なにがあったんですかぁ」
その俺達の足の下で、場にそぐわない声がした。
見ると、クリンの体が腰あたりまで出てきていた。さっき電撃を喰らったというのに、大丈夫なんだろうか。
「おい、クリン、怪我はないか?」
「あ、は、はいぃ、私はもともと絶縁体ですからぁ」
絶縁体に電撃は効かないということらしい。だったら、こいつに目隠しさせれば良かったな。
「まあいい。おい、シデン。その避雷針を返して、ついでにテルミと紅娘を呼んでこい。クリンはバレンシアを押さえるのを手伝え。特に手を押さえておけ」
「了解した」
「は、はいぃ」
俺の言葉に従い、シデンはおたまを持ったまま部屋を飛び出し、そしてクリンはまるでナメクジのように這いあがりながら、バレンシアの体を抱え込んだ。
「なぁ、うち、そろそろ帰ってもええ??」
そのとき、壁から上半身だけ出したあの黄色い女が声を掛けてきた。
「ほら、この人のメガネもかけはったし、うちの杖も返してもろたさかい」
「杖?」
「せや」
その時、やっと気がついた。床に転がっていたあの琥珀色の杖が、跡形も無く消えているのを。そしてその杖が、バレンシアの横の壁から生えた手に収まっていることを。
「わっこらちょっと待て!」
「ほなお先っ!」
捕まえようと左手を離した時には、黄色い女は杖もろとも壁の中に消えていた。
「くぁw背drftgyふじこlp;@:!」
ソレと同時に、首が自由になったバレンシアが暴れようとしたので、また押さえ込みにかかる。
そして、下から3人が上がってくるまで、俺は巨乳美女を壁際に押さえつけるという、傍から見たら犯罪者と思われそうなことを続けざるを得なかったのである。