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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
10.なにがお嬢様だ
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10.なにがお嬢様だ その21

「いってぇーっ!」

「痛いだろう、そうだろう、殴っておるのだから痛いはずであろう!このっ!」

シデンだった。手に持った棒状の何かで、俺のことをぼこぼこと殴ってくる。

「うわっ、いてっ、やめっ」

「貴様は、貴様という奴はっ!」

「ちょっと、待てっ、俺が何をしたっ」

シデンの攻撃をガードしながら、彼女が手に持っている得物を見る。それは、木製の握りがついた黒い棒で、先端に半球形のものがついている。なんか見たことがあるが、それはいつもは違うところで見ていたような・・・・・・あ、思い出した。

「ってソレ、紅娘のおたまじゃねえか!」

受け止めながら、思わず声に出してしまう。なんでシデンが持ってるんだ?しかも、それにはなぜか、いつもはない黒いコードのようなものが先のほうに縛りつけてある。そしてそのコードは、ベランダの手すりを乗り越え、その向こうへと垂れ下がっている。

コードの先を追ってベランダの手すりのむこうを覗き込む。

「あ、将仁サン!無事だたアルか!」

「まずは一安心でしょう」

手すりのむこうは屋根が無いので、そのまま飛び降りるとうちの庭に出る。そしてそこに、2人の人影がこっちを見上げているのが見えた。紅娘と、テルミだ。

「将仁サン、さっきシデンサンに、急仕立ての手持ち避雷針持たせたアル!」

「こっちはアースをしてあるので大丈夫でしょう!」

そして続けざまそう叫んでくる。どうやら、アレは紅娘がシデンに渡したものらしい。紅娘が投げたのかシデンが捕りに行ったのかは判らんがそんなことはどうでもいい。

これ(避雷針)を渡したということは、つまりこっちで何とかしろということだ。テルミは(プラズマという名前は冠しているが)電気製品だから過電流は苦手なんだろうが、紅娘はそういう意味じゃ鉄の体を持っているんだから電撃の一発や二発は平気そうなもんだが。やっぱり、少々コゲていたような気もするし、さっき直撃を食らったせいでちょっとびびったってところか。

振り向くと、シデンがあいかわらずあの黄色い女に掴みかかっている。

「さあとっとと白状しろ。貴様、誰の手の者だ。なにを探る間者だ」

「は、白状て、うちまだなんもしてへんてー!」

「当家の誰の断りも無く闖入した時点で、何もするつもりは無いわけがなかろう!」

「そら、そらそうやけどぉ~、なんもでけへんかったんやて~!」

ということは、なにかやるつもりではいたんだな、こいつは。

ま、それはそれとして。

「とにかく。なんとかしてバレンシアにこのメガネを掛けなきゃならん」

シデンと、名前のわからない黄色い女を前にして、俺はさっき確保した丸眼鏡を二人に見せた。メガネの効果については確証はないが、まずはやってみるしかない。

「シデン、お前はその避雷針を持って、俺と来い。バレンシアの電撃をそらすことに集中してくれ」

「承知した」

シデンは俺の指示にふたつ返事で答え、避雷針おたまを握りしめる。実際、どの程度電撃をアースしてくれるかは判らないが今はそれに頼るしかない。

「お前は、壁にもぐってバレンシアに近づいて、バレンシアを押さえ込め」

「うぇ、う、うちが!?」

「さっき言った「ひとりでやれ」よりはマシだろう。お前はあの杖も回収しなきゃならないんだろ」

「うううううう、しゃあないなぁ、床はフローリングやから潜れへんしなぁ」

どうやら、材質によって潜れるものとそうでないものがあるらしいが、とにかくそれはあとでいい。

「しかし、俺も入れて3人か。くそ、テルミか紅娘が来てくれれば」

「いや、あと一人だ」

中を伺っていたシデンが、そう言って中を指差した。

つられて中をそっとのぞく。所在無くなったバレンシアが、まるで動物園の檻に入れられた熊みたくうろうろしながら、時々電撃を壁や天井に発射している。おかげで部屋の中が色々こげている。

ふと、そのむこうにあるドアが目に付いた。そして、そのドアの下で何か肌色の物が動いていた。それは音も無く、そして染み出すようなスピードで部屋の中に入ってくる。

それは、人の両手の形をしていた。その手に引っ張られるように腕が出ている。

「あれは、クリンか?」

自分で言って、そして自分で思い直す。ドアの隙間から入るなんて芸当ができるのは、我が家ではクリンしかいない。しかし、あんなふうに入ってくるってことは、あっちのドアはカギでもかかっているのだろうか。

「なんやあれ、気味悪いなぁ」

俺の横から覗いた黄色い女が、その様を見てつぶやく。お前も、壁から染み出した時点で同類だと思うんだが。

やがて、銀色の髪がドアの下から出てきて、そして顔が潜り抜けた。色白の顔が、一安心したという感じでほっとため息をついた。その時だ。

「ひゃあああああああああああ!?」

クリンの悲鳴が上がった。声をあげたのか、気付いたバレンシアがそっちを向いて、電撃をぶっ放したのだ。

あんな状況でかわせるわけがない。電撃は見事にクリンに命中し、彼女は情けない悲鳴をあげた。

「くそっ!続け!」

見ているわけにはいかない。俺は、ガラス戸を開けると、中に飛び込んだ。

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