10.なにがお嬢様だ その18
あれからまた時間が過ぎ、ようやくパーティーがお開きになった。
とりあえず、あの後はおかしな騒ぎが起きることも無く、なんとか俺も将仁さんの代役を果たすことができたわけだ。
ちょっと気がかりなのは、ずっと携帯フォームのままでいなきゃならなかったケイちゃんに悪いと思って、沢山あったご馳走に手が出せなかったことだ。おかげで実は腹ペコなのだ。
帰ったら何か作ってもらおう。そんなことを考えながら、俺は帰る準備をしていた。
「ちょっとお待ちなさいな、真田さん」
その時だ。近衛さんがまた声をかけてきた。
「如何でしたかしら、今日のパーティーは。楽しんでいただけたかしら?」
そしてそんなことを聞いてくる。将仁さんだったら皮肉の一つも言うだろうが、俺の判断でここは普通に答えることにする。
「ああ、それなりに、だな。どうもこういう格式高いところは慣れてないもんで、楽しみ方もよく判らなくて」
「あら、そうでしたの?そんなに深く考えずに、普通に楽しめば宜しかったのに」
近衛さんは、満足そうな笑みを浮かべつつそう言い返してきた。やっぱり、将仁さんと自分とは格が違う、と思い知らせたかったらしい。なんて単純なんだ。
「ああそうそう」
だが、お嬢様はまたすぐに話を変えた。ネコのように気まぐれな奴だ。
「真田さん。これを、持っていきなさいな」
そして、俺に何かを差し出してきた。
見ると、それは透明なケースに入った、1枚の光ディスクだった。どうやらDVDディスクらしい。
「何のDVDだ、これ?まさかお前の歌とかプロモーションビデオとかじゃないだろうな」
「あら、この美声を堪能したいとおっしゃるのかしら。でも残念ながらあなたに聞かせて差し上げるほど、私の喉が安くありませんの」
いや、別にそんなの聞きたいとも思わないんだが。水着姿とかもっとあられもない姿とかが収録されているんだったら、見たがる奴はいるかもしれないけど。
それに、そういう類のものじゃないことは推測できた。急いで作ったようで、ディスク表面には何も書かれておらず、またケースも市販の透明なものでラベルの一つもない。
「まあ、いいですわ。そのディスクに入っているデータは、あなたが家に帰った後に非常に重要となるもの。今日は特別に差し上げますわ」
非常に重要?一体なんだろう?
「・・・・・・ありがたく、いただきます」
なんかよく判らないが、俺はそのディスクを恭しく受け取ることにした。
そして、帰ったらテルミさんかバレンシアさんに徹底的に調べてもらおう、そう思った。