10.なにがお嬢様だ その17
そのころ。
「いかがでしたかしら、ファースト・コンタクトは」
「・・・・・・思ったより、扱いづらそうな奴だな」
鏡介たちの目につかないところで密談をする男女がいた。
近衛クローディアと、六角隼人だ。しかも、六角のほうはさっきと違い、狡猾な雰囲気を漂わせている。
「あら、切れ者で知られる六角にしては、ずいぶんと面白い評価ですのね」
「俺は預言者でも超能力者でもないからな。だがあの男が俺の予想と若干違うのは確かだ。あの男は幼少時を養護施設で過ごした、そういう奴は得てして暗い面があるはずだがあの男はそれをあまり感じさせない。
腹を読ませないために演技をしているのか、それとも今遭った男は真田将仁のフリをした偽者なのか。いずれにしろ、面倒な奴だな」
「そうですの」
それに対し、クローディアは何のことはないという返事をする。
「でも、そんなことはどうでも宜しい。私は、彼が持つ擬人化の力が欲しい。それだけですわ」
「それは、あの男をものにするということか?」
隼人はそれを、茶化すような、小馬鹿にしたような口調ではやし立てる。
「それも止む無し、ですわ。私の魅力を以ってすれば、庶民の一人や二人、篭絡することなど造作もありませんわ」
クローディアは、さも当然という様子で口元を扇子で押さえ高らかに笑ってみせる。そしてくるりと振り向くと、ぱちんと閉じた扇子の先を隼人に向けた。
「貴方はその西園寺の資産をかすめとるつもりなのでしょう?あなたはそのために暗躍しているのですものね」
「違いない」
隼人は、そして下卑た笑いを浮かべた。
「お嬢様、少しお話が」
その時、どこから現れたのか執事服を身につけた男が、クローディアの傍から声をかけてきた。
その男、根津は、クローディアに小声で何やら耳打ちをする。
「そう。それで、どのような対応を?」
「はい。無礼な輩には相応の報いを受けてもらうことになるでしょう」
「・・・・・・なるほど。面白そうな趣向ですわね」
そしてくるりと華麗に振り向くと、訝しげにこっちを見ている隼人にクローディアが向かった。
「何があった?」
「ええ、当家を不当に探ろうとした輩がいたようですの」
「ほう?そいつは確かに面白いな」
隼人は、手にしたグラスのカクテルを一気に飲み干し、そして再度口を開いた。
「で、どうしたんだ?やられっぱなしというワケではないんだろ?」
「ええ、当然ですわ。今頃、こちらからのプレゼントに腰を抜かしているはずでしてよ」
そしてクローディアは、扇子を開いて口元を隠し、こう言い放った。
「こういうのを、日本ではのしをつけて返すと言うのですわよね?おーっほっほほほほほ!」
その様子を見て、さすがの隼人も「こいつらは、味方にしても敵に回しても色々めんどくさそうだ」と思うのだった。