10.なにがお嬢様だ その13
「あいつら、大丈夫かなぁ」
みんなと一緒に昼飯を食べながら、俺はそんなことを独り言ちた。
「やっぱ、いいもの食ってるのかね」
ヒビキが合いの手を入れつついつもと変わらないペースでおかずを平らげていく。
「フン、毛唐の飯など口にしたくない」
その横ではシデンがそんなことを言っているが、不満がありありと見て取れる。
「料理は材料と調理法だけで決まるもの違うアル。食べる人がどれだけ食べて良かた思うかアル!」
さらにその横では紅娘が茶碗片手に何やら力説している。
「ふん。ほーら、魅尾ー、食べるかー?」
「キュ」
箸でつまんだフライを、自分の膝に乗せた子狐の魅尾に差し出すと、魅尾はパクリとそれを口で咥える。ずいぶんと元気になったみたいだ。
「まあいいけど。ごはんおかわり」
「はいはい」
うちのモノたちの会話を聞きながら、空になった茶碗をレイカに差し出す。まだちょっとアルコールが残っているのか妙ににこやかだ。
そして、ふとまだ空席になっている椅子を見る。
「バレンシアさん、まだ降りてこないんですかぁ?」
さっきそのバレンシアに胸をもまれていたクリンが心配そうにそんなことを口にする。そう、バレンシアが下りてきていないのだ。
これだけ大人数だと、自然と食事をする時間は固まってくる。そのほうが、調理も片付けも手間がかからないからだ。
特にうちの場合、常盤さんと俺以外は家にいることが多いので余計にその傾向が強いのだ。
「常盤様、彼女が何をするか、聞いていないでしょうか?」
ちょっとイライラした様子でテルミが愚痴をこぼす。
「ごめんなさい、私にもよく判らないのです。書類の写しを作ってもらおうと思ったのですが」
常盤さんも少し心配そうに箸を咥えている。
詳しく聞いてみると、どうやらバレンシアの奴は「近衛一族」について探りを入れているらしい。あいつのことだからインターネットを経由してなんだろうが、変なところに入り込まないかが心配だ。最近ニュースとかで見る裏サイトとかアダルトサイトとかならまだいいと思う(アンチウイルスソフトは持っているらしいし)が、あいつの場合証券会社のデータベースとか防衛省のデータベースとかでも平気で入って行けそうだから怖い。なにしろ、ちょっと違うかもしれないが、SFでは敵によく現れる、自我持ったコンピューターだもんな。
ついでに言うと、あいつはオタクな性格してるから、やるときはそれこそ周りが見えなくなるし。
「あいつ、またオーバーヒートするんじゃないだろうな」
「氷嚢を作って持っていってあげようかしら」
「片手間に食べられる物でも作って、持てこアルかな」
そして、なんだかんだ言っても同じモノ同士、互いを思いやる気持ちは忘れない。なんかそんなやり取りを見ていると、俺もちょっとあったかい気持ちになるのだった。