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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
02.なんかおかしな展開に
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02.なんかおかしな展開に その9

中に入っていたのは、同じ和紙に丁寧な字が書かれた、1枚の紙だった。

読んでみると、そのとおりの遺書だった。内容は、はしょって言えば「西園寺家は、西園寺の血と力を引く者を当主とし、その者に全ての遺産を譲渡する」というもの。ついでに、後見人として常盤さんの名前も記載されていた。

「そこにある、西園寺の血を引く者、というのが、貴方なのです。将仁さん」

「・・・・・・なるほど」

そこまで聞いて、俺の口から出た言葉が、それだった。

俺は西園寺のだれかの私生児だったってところか。都合が悪いから切り捨てて、孤児として施設にあずけ、そして今、他の誰かの都合で、遺産相続のネタにしようとかいうんだろう。

サスペンスドラマとかによくありそうな話だ。

「・・・・・・それで?俺に、西園寺に戻って来いと言うんですか?」

「いいえ。あなたには、西園寺家を継いでもらいたいのです。言い換えれば、あなたが西園寺家に来るのではなく、西園寺家の遺産が、あなたのところに来るということです。あなたには、その資格があるのですから」

「なあ、その、遺産ってのはどんなもんなんだい?」

ヒビキが口を出す。

それに対する答えが、またスケールのでかい話だった。

「具体的に言うのは難しいのですが、土地、家屋、債権、株、貴金属類その他諸々を現在の価値に換算すると、およそ5千億円程度になります」

「ごせんおく!?」

常盤さん以外が口をそろえて叫ぶ。1億2億なら、それでも十分大金だが、宝くじが当たったと考えれば納得できる。海外の宝くじだと50億円相当なんてのもあるらしい。が、それとはさらにケタがガッツリ違う。個人資産だと言われても、個人でどうこうできる額じゃない。

「正確に言うと、これは今から11ヶ月前に西園寺家の資産が凍結される前の額ですから、多少上下はあると思いますが」

「な、な、な、なんで、俺なんですか?ははは話から察するに、俺は私生児なんでしょう、そんなもの、俺が受け取ったら、その、いろいろ、まずいんじゃ、ないですか」

思わずそう聞いてしまった。急に怖くなってしまったからだ。

それに対し、常盤さんは首を横に振った。

「あなたは、私生児ではありません。その証拠はあなたの左手首にあります」

そのことを言い当てられ、俺は戦慄(せんりつ)を覚えた。

実は、俺の左手首には、おたまじゃくしが踊っているのを連想させる変な丸い模様がある。輪郭がぼけているのでアザなのか刺青なのかはわからないが、少なくとも物心がついたころからあったと思う。

「これは、西園寺家の家紋、左三つ巴。あなたがまだずっと小さいころに、あなたのお母様が命じて彫らせたものです」

俺の手首を見ながら、常盤さんがうなずく。

「あとは、将仁さん、あなた次第です」

「あなた次第って言われても・・・・・・」

正直、困ってしまう。500000000000円(実際にゼロを並べるとあらためてすごい額だと思う)をくれるって言うなら貰いたい。が、そんなぶっ飛んだ大金持っていたら、命を狙われるんじゃなかろうかとか、へんな連中が寄ってくるんじゃないかとか色々余計なことも考えてしまう。

それに、金額云々以前に、遺産を引き継ぎたくないという気持ちも、真面目な話、ある。この遺産は、物心がつく前に俺を見捨てた連中の遺産だ。素直に引き継ぐにはちょっと引っかかるものがある。

「どうしよう?」

「どうしようって、俺に聞くなよ。てめぇのこったろうが、俺らが口出しするべき話じゃねぇよ」

「そんな、冷たいぞりゅう兄ぃぃぃ」

「なんだオイ、おめぇ男だろう、自分のことぐらい自分で決めやがれっての」

思わず、一番近くにいる兄貴に助けを求めたが、冷たくあしらわれてしまった。りゅう兄って、変なところで江戸っ子だとでも言おうか、金に執着しないんだよな。

「ケイ?」

「ケイはお兄ちゃんの言うとおりにするよ。ケイはお兄ちゃんが居ればそれでいいもん」

「テルミ」

「お忘れかも知れませんが、私は将仁さんの所有物でしょう。主である将仁さんの決定に、私は従いましょう」

「ヒビキぃ」

「なんだいその腰が抜けた声はよぉ。あんたあたしらの(かしら)なんだろ、あんたがしっかりしなくてどうすんだい」

困った。マジで困った。誰も助けてくれない。

うぅ、いやだ、こんなこと俺一人で決めるのか?

「・・・・・・どうやら、決めかねているようですね、将仁さん」

悩んでいた俺に助け舟を出してくれたのは、以外にも、俺が困る原因を作ってくれやがった、常盤弁護士さんだった。

「心配しなくても、時間はまだあります。じっくり考えて、お決めになってください」

すぐに決めなくてもいい、その一言で、ちょっとだけ安心した。

「まだ、って、期限があるみたいな言い方だねぇ」

「仰るとおりです」

だが、ヒビキの一言が、また俺に不安を抱かせる言葉を引っ張り出してくれた。

「この遺言書の有効期限は、書いた者が亡くなってから1年。私は、それまでに、西園寺の血を引く人を探し出さねばなりませんでした。そして、期限まで一月を切った昨日、ようやくあなたのことを探し当てたのです」

「それはつまり、あと1ヶ月で決めろってことだな。うん、五千億を手に入れるかそれとも一円ももらえないか。その間はないんだよな。うんうん、こりゃ悩むよなぁ、なあ将仁」

「あうううううう」

そんなこと判っとるわい。なんでそう煽るようなことを言うんだこの脳天気兄貴は。

「ねぇねぇ、五千億円あったら、何が出来るかな?すっごく遠くまで届くアンテナとかがつけられるのかな?」

「超薄型、立体映像の画面、音だけじゃなくてにおいなども再現できるかも、はうぅ、なんて素敵でしょう・・・・・・」

ケイとテルミはなんかすでに手に入れたような気分になっているし。言っていることはオーバースペックどころかオーバーテクノロジーだし、だいたい、お前らはそういうふうに改造できるタイプじゃないだろう。

なぜかヒビキだけは調子に乗らず、うさんくさい目で常盤さんをながめている。

でも改めて考えると、それだけあれば、たしかに俺がしたいことのほとんどはできる。っていうか、一回でいいと思ったことでもいくらでも出来そうだ。

そんなのが、あっさりと俺のになるなんて、こりゃ間違いなく、何かあるな。

「えーとあの、すいません、もうちょっと聞きたいことがあるんですが」

「はい、なんでしょうか?」

常盤さんは、あくまでも冷静だ。あくまでも仕事は仕事と割り切っているのだろうか。

「俺以外の、西園寺の人って、どうしたんですか?」

「・・・・・・それは・・・・・・」

すると、初めて常盤さんの表情が曇った。そんなにいい家柄なんだったら、俺なんかよりずっとそれらしい奴がいるはずだ。それなのにこの弁護士は俺のところに来た。ということは・・・

「・・・・・・皆さん、お亡くなりになっています。その最後の当主、西園寺静香(さいおんじしずか)様がしたためたのが、その遺言書なのです」

なんとなく、想像はついた。だが、断言されたときに何の気持ちも湧かないのは、自分でもちょっとだけ驚いた。遺産がほしいという気持ち、血の繋がった両親に遭いたかったという気持ち、俺を捨てた家の遺産なんか意地でも引き継ぐもんかという気持ち、そんなのがないまぜになって、結局は中和されてしまったというところか。

「・・・・・・考えさせてください」

俺は、そう答えるのがやっとだった。

どうも、作者です。


なんだか、スケールのでかい話になってまいりました。

って、書いている作者が言う台詞ではありませんがw

ちなみにここで出てきた五千億円という数字、実は何も根拠が無い話ではなく、日本の長者番付上位の人の総資産額から拝借したものなんです。

もしこれだけのお金があったら、何をするでしょうかねぇ・・・・・・なんかろくなことしないような気もしますな。


次は、ちょっとまったりした時間が流れます。

息抜きとして読んでください。

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