10.なにがお嬢様だ その2
「ふぅ」
病院から帰った俺は、部屋に戻るとそのままベッドの上に寝転がった。
全治1週間の打撲、それが診察の結果だった。骨にひびが入るとかあるかなーと心配したんだが全くの杞憂だった。俺の骨は予想以上に頑丈だったらしい。
ま、全治1週間と言ってもそれはアザが消えるまでで、痛みは今日明日ぐらいには引くだろうとのこと。左の頬を触ってみると、腫れ用のシップの感触があるが、これも明日には取れるはずだ。腫れた顔で学校に行かなくて済むのは幸いだった。
ベッドの上からぼーっと天井を見上げていると、俺の身代わりとしてお嬢のところへ行った鏡介と、それに同行したケイのことが思い浮かんだ。
近衛の屋敷って、どんなのなんだろうか。実物を見たわけではないからなんとも言えないが、まあ資産家の家だから無意味にでかいんだろうな。
そういえば、西園寺の家ってどのぐらいの規模なんだろう。やっぱり無意味にでかいのかな。それとも、意外とこじんまりしているのかな。
「Master~♪」
そんなどうでもいいことを妄想していると、部屋のドアがノックされ、そんな声が聞こえてきた。
「ん、バレンシアか、どした?」
よっこいしょと、微妙に痛みが残る体を起こす。はて、今日は仕事はいいんだろうか。
「A little bit用があるデース。Enterしてもno problemデスかー?」
「ん、ああ、鍵なら開いてるから、好きに入っていいぜ」
「Then、オジャマシマース」
がちゃ、とドアを開けて金髪巨乳のメガネっ子が入ってくる。
そして、寄りかかるようにしてドアを閉めた彼女は、何のためらいも無く俺の横に腰掛けた。ちょっとどきっとする。
「Master.ミーはMasterにpresentがあるデース!」
腰かけて開口一番、バレンシアはそんなことを言い出した。
「Here you are!」
そして、ハンドボールぐらいの大きさの、ぱっと見スポンジかなにかでできた白い塊を差し出して来た。スポーツ選手とかが握力のリハビリとかで使うボールかと思ったが、よく見ると、なぜかその一部にちょこんと小指の先ぐらいの突起がついている。
それは、すべすべというかさらさらとした手触りの白いスポンジみたいなもので出来ていた。
「・・・・・・なんだこれ?」
受け取りつつ、聞き返してみる。だってしょうがないだろう、微妙に卑猥なものを連想しちゃったんだから。
「This is ミーのinvent(発明)したspecial item、名づけて“ベンテンボール”デース!」
その言葉を聞いて、ふと数日前に鏡介の腕に取り付けられた、一昔のSF映画に出てきたロボットみたいなアレを思い出す。だがこれは、見たところ電線も基盤も見当たらないし、それどころかメカメカしい雰囲気も無い。
「これハ、MasterがMiss Keiにthinkをreadされるのをguardするitemデース。Please grasp it.」
grasp、握れってことか。言われたようにその奇妙な物体を手にとって握ってみる。
スポンジのように柔らかいが、水風船のような反発もあり、なんかいい感触だ。今はやりの、低反発素材ってやつかとも思ったがあれよりも柔らかい。
だが、これがケイのテレパシーを防ぐのにどう役立つんだろう。マンガとかだとヘルメットみたいに被るやつが出てくるが、これは被るにはあまりにも小さいし、そもそもそういう形になっていない。
「Miss Keiハ、nowにthinkした事しかreceiveできナイデース。So、readされたとsenseしたら、anotherなコトをthinkすればgoodデース。And、このベンテンボールは、そのanotherなthinkをhelpするのデース」
俺が何度かその物体をにぎにぎしていると、バレンシアが少し顔を赤らめながら、説明をはじめる。って、なんか顔が近い。
「Next stepがimportantなのデース、Master」
「へ?」
俺の目の前でバレンシアが微笑んで見せる。そして、空いていた俺の手を取る。
「Here you are♪」
そして、何を思ったのか、その手を自分の胸に持っていったのだ。
思わず握ってしまった指が、やんわりした抵抗と共に我が家ナンバーワンの巨乳にめり込んでいく。そしてバレンシアは嫌がる素振りすら見せない。
「ぶっ!?」
「Do you understand?ベンテンボールは、ミーのbreastとsame size、same shape、same feelingなのデース」
一瞬で頭に血が上る。こいつ、こんな朝っぱらから色仕掛けか!?
「Masterが、ミーのbreastのtouch(感触)をremember(記憶)しテ、ベンテンボールをgraspすれバ、Masterはミーのbreastでbrainがfullになッテ、thinkがcannnot readになるデース。だからMaster、もっとrub(揉む)しても、no problemデースよー?」
そのバレンシアは、説明しつつも俺の手を自分の胸に引き付けてめり込ませ、頬を染めながら、俺のほうに迫ってくる。
うをををっ、やばい、やばいぞっ、俺の下半身がバリバリに反応しているッ!コラ、俺、理性を保てっ、相手はノートパソコンだぞっ、精密機械だぞっ、クリンと違って、壊れるんだぞっ!やっちゃったら、壊れる・・・・・・かどうか判らないけど、とにかくヤバいんだぞっ!
必死になって理性を保とうとするが、手は俺の意思をよそに勝手にバレンシアの胸を揉んでいる。これがまた、服の上からだってのに、すごくやわらかいんだ。
「Nmm、Master、youって、hyum、unexpectedly(意外)に、technicianデスぅ」
そしてバレンシアのほうも相変わらず全然嫌がらない、それどころか妙に幸せそうな顔してこっちを見てくるもんだから余計にヤバイ。
あぁ、もういいかも。シンイチの奴だってこの夏にグッバイチェリーボーイしたんだ、俺だっていいじゃないか。バレンシアだって明らかに誘っているんだ。
だが、俺が次の段階へ進もうとしたときだ。
「バレンシ、うわぁああ!?」
突然、俺の耳の穴に何か柔らかいものが入り込み、同時に俺のわき腹を何かがつついてきたのだ。