10.なにがお嬢様だ その1
9月23日
今日は9月23日。土曜日だが国民の祝日である秋分の日なのでは補講はない。
だが、それなのに俺の目の前にはうちの制服を着た男が立っている。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですって。将仁さんこそ、ちゃんと病院行ってくださいよ」
誰かなんてわざわざ言う必要はない。今日1日、俺の身代わりをする鏡介だ。
こういう時、まるっきり任せっぱなしというのはやはり少々不安だ。
なにしろ、こいつがこれから向かうのは、あの近衛お嬢様の屋敷、言い換えれば俺を下僕にしたがっている奴の所なのだ。
まあ俺のフリすることに関しては並ぶ者がない(鏡なんだから当たり前だが)鏡介だから簡単にはボロは出さないだろうし、いざとなったら鏡ワープで逃げることになっているから大丈夫だとは思うが、それでもやっぱり心配なものは心配だ。
「変な挑発には乗るなよ、ケガしないよう気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ、バレたらごめんなさいして逃げるだけッスから」
声をかけると、鏡介はあっけらかんとそういい返して来た。全くこいつは呑気というかなんというか、外見は俺と同じだが性格は微妙に違うんだよな。
「あうぅ、なんか緊張するよぅ」
その鏡介の手の中で、ケーターフォームになったケイが、緊張と期待の入り混じったような表情をディスプレイに映している。実はケイもそのパーティーに行くことになっている、もとい、した。行くといっても、ケイの場合はこっちとの連絡を取るための「携帯電話」としてなので、「人の姿」になるチャンスは多分ないだろう。
「けどさぁ、パーティーに制服っていうのはちょっとアレだよなぁ」
「日本男児なら紋付羽織袴で行くべきだと思うのだが」
「No, no, no!Miss KonoeはStatesにlong time にstayしたデスから、tuxedoでgoがmannerとしてgoodデース!」
その横では、置いていかれるモノたちが無茶なことを言っている。行かれないのでひがんでいるのかもしれない。だってしょうがないだろ、招待されたのは俺だけなんだし、大勢で押しかけてヒンシュクなんか買ったらお前らもどうなるか判ったもんじゃねぇんだぞ。特にバレンシアなんかはヒビキやシデンと違って戦闘能力皆無なんだから力ずくで逃げるなんてことも出来ないわけだし。
第一、俺は紋付羽織袴もタキシードも持ってない。
「そろそろっすかねえ」
そんなやり取りを横目に、鏡介はエチケットブラシをケイと反対側の手に持ち、備え付けの鏡を眺めながらそんなことを口にする。
なんでも、鏡介の奴は、鏡から鏡へのテレポートができるだけではなく、「鏡を通して、別の鏡に映った物を見る」ことも出来るらしい。
相手側からこっちが見えるのかはまだ調べてないらしいが、もし見えないとしたら、絶対にばれることなく入浴シーンが覗き放題、ということになる。
口に出しては言えないが、羨ましいぞこん畜生。
「鏡介さん、ケイさん。お迎えの方が、いらっしゃいましたでしょう」
そんなこんなで時間を潰してると、テルミがそこにやって来た。時計を見るとちょうど9時。招待状にある、迎えが来る時間ちょうどだ。
「うううううう、来ちゃったよぅ」
「大丈夫だって、ケイはいつもどおりの仕事をしてればいいんだから」
「・・・・・・う、うん」
緊張しているケイに一声かけ、そして閉じさせる。
「じゃ、行ってきます」
ケイをポケットに入れた鏡介が、部屋から出る時にもう一度振り向き、敬礼をしてきた。
「ん、気をつけてな」
俺はそれに敬礼で返す。別にそんなに深い意味はない。うちは軍隊じゃないんだが、シデンが俺を「上官」と呼ぶせいか時々ふざけ半分でこういうことをする。。
「じゃ、あたしらも見送ってくるわ」
そして、他のモノたちもぞろぞろと俺の部屋から出て行き、俺一人が取り残される。
本当は俺も見送りたいのだが、俺が姿を現したら鏡介の言う「影武者」のことがばれてしまいそうなので、部屋で待つことにした。
「あいつ、大丈夫だろうな」
ぼんやりとしていると、まだ少し腫れている左の頬がずきんずきんと痛みだした。
どうも、お久しぶりです。作者です。
第10話を始めます。
今回は、休日ということで委員長やシンイチやヤジローは出てきません。
ヤジローあたりは勝手に来そうな気もしなくもないのですが、そのへんはモノたちが上手くあしらったと思ってください。
拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、ご意見ご感想ご指摘などありましたら遠慮なくお願いします。




