09.幽霊って何ですか その20
夕食が済んだ後、俺はリビングの隅にあるダンボール箱をのぞいてみた。
その中には、金色の毛の塊がとぐろを巻いている。
「どうだ魅尾、ちったあ元気になったか?」
しゃがみこんでその金色の毛玉に声をかけるが、反応しない。
「栄養剤を注射しただけッスからね、リハビリ兼ねて、もう少し時間が必要なんじゃないスか?」
そこに、俺の後ろから鏡介が声をかけてくる。
「予防接種とかはしてねえのか?」
「お医者さんが言うには、弱りすぎてて予防接種で使うワクチンで病気になる可能性があるから、もう少し元気になってからのほうがいいって」
「なるほどねぇ」
と、そのやり取りを聞いたからって訳ではないのだろうが、その毛玉がもぞりと動いた。
気だるそうに頭を上げると、目を開いたのだ。
「お、起きたか」
狐目というと細くつり上がっているものだが、初めて見る狐の目は、思ったより丸い。そして犬や猫のように白目がほとんどない。
「わぁ、かわいーっ!」
いつの間にいたのか、俺の横から箱の中をのぞきこんだケイが黄色い声を上げる。
そう言うのも判らないではない。俺だってそう思った。思ったが、素直に言ってしまうのは恥ずかしいのだ。
「おっ?あのチビ助、気がついたのか」
「まあ、ぬいぐるみみたいでかわいいですぅ」
「紅娘よ、美味そうなどと言うてはならんぞ?」
「言わないアルっ!中国でも狐はそな食べないアルっ!」
「Hey,Mio. Look this side♪」
いつのまにか、魅尾のまわりには人だかりができていた。まあ、女は基本的にかわいいものが好きらしいから、当然といえば当然だ。ちなみに集まってるのは全員ではなく、テルミとレイカは食後の後片付けがあってまだキッチンにいて、常盤さんはちょっと仕事があると言って2階にさっさと上がってしまっている。
それ以外がみんなここに集まっているのだが、さすがに手を出すやつはいない。意識が戻ったからと言っても弱っているのは変わりないからだ。俺だってそうだ。
「どうだ、食べるか?」
つい、と、箱の中にシデンが小皿を差し入れた。そこにはいつの間に作ったんだろうか、小さく刻まれた油揚げが載っている。
昔から油揚げは狐の好物、と伝えられている。だから油揚げなんだろうが、狐って犬に近いから本当は肉とかドッグフードとかのがいいんじゃないだろうか。
もっとも、その心配は無用だったらしく、魅尾はくんくんと臭いをかぐと、その一切れをぱくりと口に咥え、そのまま食べてしまった。
そして、気に入ったらしく、ぱくぱくとその油揚げを平らげていく。
その仕草がかわいいもんだから、うちの女性陣は盛り上がってしまい、シデンがレイカから袋入りの油揚げをもらって封を切りそのまま出すことになった。
それは大きいままだったが、魅尾はそれを前足で押さえながら器用にかじり取り、むしゃむしゃと食べて見せる。
と、半分ぐらいまで食べたところで、はじめて気がついたように油揚げから口を離し、じっとこっちを見つめてきた。
うーん、なんとなく、何か言いたそうに見える。何が言いたいんだろう。
「お兄ちゃんもそう思う?お礼が言いたいんだったら、いいんだけどね」
「なに見てんだよ、だったら目も当てられんな・・・・・・ってこらケイ、また勝手に人の心を呼んだな!?」
「あぅ、だってぇ、そのほうが早いんだもん」
ケイがちょっと決まりが悪そうな顔をしてこっちを見る。そんな顔をされると俺もあまりきついことを言えくなってしまう。くそう、俺のほうがいいようにあしらわれているじゃないか。
「じゃケイちゃんサン、テレパシーで、魅尾の心読んでみたらどアルか?」
「えぇー?できるかなぁ、ケイ、狐語わかんないけど」
そんなのムツ○ロウさんだって判らんだろ。
「ムツ○ロウさんって、誰?」
「だぁ、読むところが違うだろ、なんで俺の考えてることばかり読むんだっ」
「えぅ、だって読みやすいんだもん」
「Maybe、onceにtunesしたwaveは、easilyにreceiveできるのでショウねー」
なるほど、履歴が残るってことか・・・・・・できればその履歴は残さないでほしいんだがなぁ。
「ほら、やってみろよ」
ヒビキに促され、ケイが魅尾のほうに向きなおる。
そこにいる全員が固唾を呑んで見守っていたが、魅尾が面白くなさそうにぷいっと顔を背けると、ケイはため息をついてしまった。
「はぁ、だめだぁ」
そして額を押さえる。
「唉呀、やぱりダメアルか」
「うん、なんか真っ白でなんにもわかんないの。最初、ちょっと見えたんだけど」
「真っ白ぉ、ですかぁ?」
「まさか空の極意ッ!?なはずがないか、こんな畜生ごときが」
シデンの奴がまたなんかワケのわからんことを言ってる。
「なんスかその空の極意って」
「言葉で説明するのは難しい、後にしろ」
「ホントはお前も判ってねぇんだろ、シデン?」
「ぬぅっ!この口か!この口が余計なことを言うのかっ!」
「んぎいてコラなにひやがんだよ!」
「ぐっ、こらヒビキ、人の回転翼を掴むなーっ!」
そこに突っ込まれたシデンがヒビキの頬をつねり、ヒビキはお返しとばかりにシデンの頭のてっぺんから生えている一房の銀色の髪の毛をむんずとつかんでいる。
「もうっ、こんなところで喧嘩しないでよーっ!」
やがてそれは取っ組み合いに発展し、ケイと鏡介と紅娘がそこに止めに入っていた。