09.幽霊って何ですか その19
今日の夕食はレイカと紅娘による、手作り餃子づくしだった。テーブルに100個以上の餃子が並ぶのは結構迫力がある。しかも、皮から手作りという懲りようだ。
実家でもお袋が造ったことはあるが、あの時はさすがに皮は市販品だったな。
ちなみに、この餃子の作り方にしても二人の違いは出ている。餃子というと焼き餃子のイメージがあるが、紅娘曰く、実は本場中国には焼き餃子は正式なメニューとしては存在しなくて、ほとんどが水餃子や茹餃子なんだそうだ。というわけで、焼き餃子はレイカ、水餃子(正確にはスープ餃子)は紅娘の作ということで一緒に並んでいる。
とはいえ、どっちも美味いことには変わりが無い。
夢中になって食ってると、餃子のタレが無くなってしまった。タレなしでも美味いが、少々ものたりない。
「レイカお姉ちゃーん、お醤油とお酢貸してー。お兄ちゃんがタレがないと物足りないってー」
と、突然ケイが声をあげた。
「タレ、作ってあげるね。お兄ちゃんはお酢とお醤油、どっちが多めかな?」
回ってきた醤油差しを手にしながら、ケイがこっちを見る。
俺は、餃子のつけダレは酢が多目がいいが、そんなにこだわらないほうだ。
「ん、お酢が多めね。」
その俺の目の前で、ケイが楽しそうに餃子のタレを作っている。
そこで、俺はふと疑問を感じた。
俺、口の中にメシがはいっているので、さっきから一言も喋ってないのだ。それなのに、ケイはなぜかあたかも俺が言ったかのように動いている。
「おい、ケイ」
さすがに気になったので、口の中身を飲み込んでからケイに聞いてみることにした。
「ん?お酢多すぎちゃった?」
「いや、それはいいんだけど、俺、さっきから喋ってねーんだけど?」
「え?」
その瞬間、ケイの手が止まった。
「ケイ、お兄ちゃんが言ったって思ってたんだけど、違うの?」
そして、怪訝な顔でこっちを見る。そしてその瞬間、やっぱり、と思ってしまった。
ケイの目が、白ウサギのごとく赤くなっていたのだ。俺をボコしたナンパマンズを追い払った時と同じだ。
「え?やっぱりって、もしかして鏡介お兄ちゃんと間違ってた?」
そしてそっちを向こうとするケイを呼び止める。
「ちょっと、ケイ、いいか?」
「え?なに?」
今はいつもの鳶色だ。
「ケイ、お前さっき、俺が何を考えてるのかって、考えてなかったか?」
「え?」
「いや、だから、俺が何をしてほしいのかなって、思わなかったか?」
すると、ケイは目をぱちくりさせて、本当に驚いたような顔をした。
「え、お、お兄ちゃん、ケイの考えてることが判るの!?」
その瞬間、和気藹々と餃子を食ってたモノたち&常盤さんが一斉にこっちを向いた。
「ま、将仁さん、変な力に目覚められたのでしょう!?」
「頭殴られたからか!?記憶なくしたりはしてないよな!?」
「Wow! It’s marvelous!Master、it’s very very すっばらしーコトデース!」
そして一斉に盛り上がる。しかも、俺がそーゆー力を持ってるとゆーことになってやがる。
「ちがーうっ!俺じゃねえええぇぇぇっ!」
とりあえず、ありったけの大声でそう言っておく。
「なにを言っておるのだ、上官?せっかくの力、否定することもあるまい」
「んだからそれが違うっての!それは俺じゃなくてケイなんだよっ!」
「え、えええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
俺が真相を力いっぱい叫ぶと、ケイがちょっとやりすぎなぐらいに驚いて見せる。自分でやってて気がついてないのか、おまえは。
「うそ!?ケイなの!?」
「だって俺、さっきから口に出してないのにタレ作ってくれたりお酢多めにしたりしてんだろ」
「えー、だってお兄ちゃんがそう言ってるのが聞こえたんだもん」
「だからそれは、お前が俺の考えたことを読み取っているんだって。それに、さっき俺を助けてくれたのもケイじゃないか」
そして、ケイの仕業であろうあの「許さない」テレパシーのことを話す。
「・・・・・・うそ・・・・・・ケイがそんなことを・・・・・・」
全部聞いた後だというのに、ケイはまだ信じられないといった様子でいる。
「Hmm、maybe コレは、Masterのbrain waves(脳波)をreceive&sendしてるデースねー」
突然、バレンシアがそんなことを言い出した。
「Essentially(本来)、cellular phone(携帯電話)は、specific frequency(特定の周波数)のwaveしかcannot receive(受信出来ない)なのニ、Miss Keiはanother frequency(別の周波数)のwaveもreceiveしましタ。そのon the extension line(延長線上)で、Masterのbrain wavesをreceiveしているのデース」
要するに、ケイは俺の脳波から思考を読んでるというわけらしい。結構ぶっ飛んでいる話だが、“共感”というのは脳波の同調によるという説を聞いたような気がするのでうかつには笑い飛ばせない。それに、さっきの鏡介といい、最近こいつらの人間離れ度には拍車がかかっているから、そういうことがあってもおかしくないような気がしてしまうのだ。
「お兄ちゃんひどいー!人間離れなんて言っちゃやだぁ!」
と、俺の服の袖が思いっきり引っ張られる。見ると、涙目になったケイがこっちを見ているのだが、その瞳がまた赤く光っている。
なんだかんだ言いながら、ケイのやつはテレパシーの使い方をもうマスターしてしまったらしい。恐ろしい話だ。
「おい、ケイ。あんまり、それ、やるな」
俺は、ケイの肩に両手を置いて、そう諭す。時には「察してくれ」と思うことはあるが、考えていることを片っ端から読まれるのはそれ以上に困るからだ。
「うぅぅーっ」
たぶん、俺の考えていることが判るのだろう、ケイはすっごく恨めしそうな顔で俺を見ているが、そんな目で見られてもこればっかりは安易にオッケーとは言えない。なんでって、誰だって心を読まれるのは嫌だろう。昔話に出てくるさとりがなんで怖がられるのかは、それこそ考えていることを読まれるからだ。
そして、俺は、ケイをそんな怖い存在と思いたくはない。
「うううぅぅぅ・・・・・・わかったよぉ・・・・・・」
ケイは拗ねたような顔で俺を見る。そのうるうるした赤い瞳が、徐々に鳶色へと変わっていく。
それが完全にいつものケイのそれに戻ったのを確認した瞬間、俺は思わず大きく息を吐いてしまった。