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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
02.なんかおかしな展開に
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02.なんかおかしな展開に その8

ケイを首にぶら下げたまま、りゅう兄に連行されるようにして、俺は自分の家の中に入った。

ダイニングでは、テルミが、まるでホンモノのメイドさんみたいに、見知らぬ女の人にお茶を出していた。グレーのスーツを着込み、眼鏡をかけた、まさに「知的な女性」というより「ビジネスウーマン」と言いたくなるような人だ。頭の後ろで髪をだんご状にまとめて、それをフリルつきのハンカチで包んでいるのが、ちょっとしたアクセントになっている。

その女の人は、俺の顔を見るなり、席を立った。

「あ、お帰りなさい。お待ちしておりましたわ」

先手を打たれた。

「真田将仁さん、ですね。私、こういう者です」

こちらが返事をする前に、その女の人は、俺に名刺を差し出した。

『常盤弁護士事務所 主任弁護士 常盤花音代(ときわかねよ)』と書いてある。

思わず、その名刺と女の人の顔を交互に見比べる。その襟元に、向日葵(ひまわり)に天秤の模様が刻まれた、金色に輝く丸いバッジが光っていた。

「って、もしかして」

「はい。昨日お電話差し上げました、弁護士の常盤です。お探ししましたよ、将仁さん」

そして、にっこりと微笑む。上品な笑い方だと思った。

「将仁さんが時間を守る方で安心しました。4時ごろと仰っていたので、少し早めに伺ったのですが」

そういえば、そんなことを、昨日言ったような気がする。

が、次の瞬間、俺はこの目の前にいる、常盤という女が全ての元凶だということを思い出した。

「そういえば、うちに来て、事情の説明をするって、言いましたよね」

なるべく冷静を装い、問いかける。この状況、携帯電話やプラズマテレビやオフロードバイクが人の姿になるこの現象をどう説明してくれるのか、当事者ですら混乱するこの状況にどんな理屈をつけてくれるのか、はっきりしてほしい。そして、収められるなら早いところ収めてほしい。

「はい、私もそのつもりで伺いました」

すると、常盤さんは湯呑(ゆのみ)を静かに置いてから、表情を引き締めた。

少々長くなりますが宜しいですね。そう前置きしてから、常盤さんは話をはじめた。

「まず、将仁さんが置かれている状況と、その原因について説明しましょう。これは、「擬人化(ぎじんか)」と呼ばれる現象によるものです」

「擬人化?」

なんか、どっかで聞いたような言葉だ。

「人でないものを人になぞらえることでしょう。古くは「海は招く」「森が泣く」などの表現がありますし、最近ではテレビアニメでもそのような表現がありますでしょう」

さりげなくテルミがフォローしてくれる。言われてみれば、コマーシャルとかで顔がついた電車や車のアニメなんかが出ているし、マスコットキャラなんかもその類なんだろう。他に、「萌え擬人化」とか言って戦闘機とかを女の子がコスプレしたみたいな姿にしている絵を見たこともある。

だが、あれは全部マンガや観念や空想の世界であって、現実でなんてのはありえない、いや、あっちゃまずいと思う。人間の倫理観をどうにかする話だ、そんなの。

「あなたには、擬人化を現実に引き起こす力を受け継いでいるのです。お解かりいただけますか?」

そんなので解るかっ!と叫びたくなるのをぐっとこらえ、首を横に振る。

だってそうだろう。昨日までそんなことこれっぽっちも知らずに生活して来たのに、いきなり「そういう力がある」といわれてはいそうですかと受け入れられるほど俺は単純ではない。つもりだ。

「なんで、俺にそんな力があるんですか」

「それは、あなたが、先祖代々、その力を受け継いできた一族、西園寺(さいおんじ)家の末裔だからです」

「サイオンジ?」

「はい。そして、西園寺家の遺産を受け継ぐ資格がある人物、それがあなたなのです」

なんか、俺が知らないところで話が膨れ上がっているみたいだ。

そして、常盤さんは、デタラメここに極まれりな力を引き継ぐ「西園寺家」というものについて説明してくれたが、これがまたマンガのような話だった。

まず、この西園寺家というのは、平安時代から存在する旧華族(かぞく)の一派で、さらに(さかのぼ)ると、なんと聖徳太子の時代に、仏教伝来について蘇我(そが)氏と対立した、物部(もののべ)氏という一族にたどり着くという。

その名前は、日本史の授業で聞いたことはあるが、自分がそれに関わりがあるとは予想外だ。

「そして、この物部一族が持っていた力、それが当時は霊代たましろ、現在では「擬人化」と呼ばれる力なのです」

常盤さんがそう断言する。

「物部の一族は、物部神道と称される術を伝えていたといわれています。日本書紀などによると、その真髄は、魂を奮い起こすことにより精神の力を高め活力を生み出すことと言われていますが、実際はその奮い立たせる相手は人でなくとも良く、特に、武具・道具のように、自らは動かない「物」の魂を、活力を与えて行使したことで、「物部(もののべ)」と呼ばれたのです。

あらゆる物に神がいる、八百万(やおよろず)の神という日本古来の考え方にも通じるものがありますね」

そこまで聞いて、ちょっと驚いた。似たようなことを昨日、テルミが言っていたからだ。

ちらっとそっちを見ると、テルミは困った顔をしながら頬をぽりぽりと掻いた。テルミもそこまでは考えていなかったらしい。

その後も、「物部(もののべ)」についての話はしばらく続いた。さすがに物部(もののべ)一族がなぜそんな力を持つようになったのかはあまりに昔過ぎてはっきりしないらしいが、「仏教」という新しい考えとソレが持つ「力」を恐れた物部(もののべ)の一族は、やがてその仏教を擁護した蘇我(そが)氏と対立、その後の戦争で頭首である物部守屋(もののべのもりや)が死に、一族は没落、というより壊滅状態となる。その後、大化の改新に登場する中臣鎌足(なかとみのかまたり)、後の藤原(ふじわら)氏一族に保護されて生き延びた一部の生き残りの子孫が、やがて藤原氏に吸収され、やがてまた分かれたときに西園寺を名乗るようになったんだそうだ。

そして、その末裔が俺。という訳らしい。

「はー・・・・・・」

ここまでスケールがでかくなると、ホントでもウソでもどうでも良くなってくる。

「ここに、先代の遺言書があります。ご確認ください」

アホの子のように口をあけてぽかんとしていると、常盤さんが白い封筒を差し出してきた。素人の俺でも判る、上質の和紙を使ったそれには、綺麗な字で「遺言書」と書かれている。

すこしためらったが、俺は口を開き、中身を引っ張り出した。

どうも、作者です。


前回の真田龍之介氏に続き、実はこれからのキーパーソンになる弁護士、常盤花音代氏の登場です。

この人の名前、判る人は判る語呂合わせになっていますので、良かったら覚えていてください。

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