09.幽霊って何ですか その18
「・・・・・・お、おい、ちょっと待て、なんだよこれ!?」
思わず叫んでしまう。
だが、俺とケイ以外は、仲間が一人消えたというのに、誰も慌てた様子が無い。
「カコイイアルな~、ワタシもあんな能力ほしいアル」
「全く、自分の力なのに自分で知らないなんて、マヌケな話だよなぁ」
「うーむ、我にも新たな力が何か眠っておらぬものか」
それどころか、のん気にそんな事まで言っているのだ。
「ちょ、ちょっと待て、お前ら心配じゃないのか!?鏡介が、鏡介がいなくなったんだぞ!?」
何か鏡介を見捨てたかのようなモノたちの発言に少しカチンと来た俺は、そう怒鳴ってしまう。
すると。
「・・・・・・もうそろそろですね」
常盤さんが、リビングに掛けられた時計を見て、そんな事を言った。
そろそろって何だ?と思った直後だ。
「ただいまー」
聞き覚えのある声が、リビングの入口のほうから聞こえた。
全力で振り向き、そこにあるものを見る。
そこには、俺と寸分違わない、奴の姿があった。
「きょ、鏡介!?」
「将仁さん、その顔、すごくマヌケっすよ」
そう。そいつこそが、ついさっき俺の目の前で消えた、鏡介だったのだ。
「・・・・・・どうなってんだ?」
「だから、さっきから言ってるじゃないッスか。俺はワープができるって」
まだ混乱から立ち直らない俺に、鏡介が「なんで判らないんだ?」と言いたげに答える。
「もっとも、鏡のあるところにしか移動できないんスけどね、へへ」
照れたように鏡介が頭を掻く。つまり、鏡介の奴は、鏡のあるところから別の鏡のあるところへ、一瞬で移動できるらしい。ちなみに、今回は洗面所の鏡のところに行っていたんだそうだ。
「うわぁ、鏡介お兄ちゃん、凄いの、超能力者みたいなのー!」
正体を知ったケイは、素直に感心してみせる。超能力といえば、ケイの奴はさっきテレパシーみたいなことをやってみせたから、他の連中もそういうのが出来るのかも知れない。
・・・・・・なんつーか、こいつら、元々妖怪じみた奴らだとは思っていたが、最近、それに加速がかかってきていないか?
「魅尾の親御さんの墓を作った後、暇があったんで、DVDでも見るかって事になって、レンタルビデオ屋に行ったんですよ。そしたら、ミラーマスクっていうのを見つけましてね。ミラーなんて名前があるからには、鏡として見なけりゃ、と思って借りて、見たんスよ」
なんで今日になって気がついたのか改めて聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
ミラーマスク。確か、赤と銀の全身ツナギの宇宙人が巨大怪獣と戦う例のアレの亜流で、親父がまだ小学生ぐらいのときにテレビでやっていた、あれよりはマイナーなヒーローの名前だ。
「そんで、真似したら出来ちゃったんスよね」
そして、鏡介は照れたように笑う。なんという非常識。
「真似したら出来たって、そりゃいくらなんでもムチャクチャじゃねーか?ありゃ特撮のフィクションだぞ?」
「でも、そう言われても出来ちゃったモンは出来ちゃったんだから、しょうがないじゃないスか。将仁さんだってさっきのアレ、見たっしょ」
「そりゃ見たけどさあ、普通は変身するとか目からビームを出すとかバリヤーを張るとか、アクションが判りやすいトコロから始めるもんじゃねーのか?」
「そりゃーやりましたよ。ビームも撃てましたしバリヤーも張れましたけど、体の大きさはどうやっても変わらなかったし変身もできませんでした」
「へぇそうか、そんじゃ変身ヒーローってわけじゃ・・・・・・・・・・って、え?」
一瞬聞き流してしまったが、今こいつ、すっごくムチャクチャなことを言わなかったか?
「・・・・・・ビームが撃てる?」
「ええ、撃てますよ。まあ出るのは手からで、目からじゃないスけどね」
そして、バルコニーに出ると、鏡介の奴はそこから数メートルほど離れたところにある芝生を指差すと、そこを見ていてくださいと言う。
何事かと思いつつそっちを見ていると。その芝生に向かって、鏡介が両手を自分の胸元に水平に構え、そして掛け声とともに先を突き出すように両腕を伸ばした。
なんのまじないだと思った瞬間、その指先に青みがかった白い光が点り、そしてそこから同じ色の光線がさっき指差した芝生へと真っ直ぐに伸びていったのだ。
つまり、鏡介の奴は本当に「ビーム」を発射しやがったのだ。デタラメもここまでぶっとんで来ると、感心してしまう。
しかも、その光が当たったところからは、まるで花火のような火の粉が飛び散り、そしてバシバシという爆音がしていた。そしてその跡には見るも無残に焼け焦げた芝生と、はっきりえぐれた地面が見えたのだ。人間に向けてやったら、確実に痛いでは済まされない。
改めて、うちのモノたちには物理法則を無視したところがあると、思い知らされてしまった。
「鏡介、お前は怪獣とでも戦うつもりか?」
「そういうふうにしたのは将仁さんでしょ、俺に戦わせたいんスか?」
バルコニーから戻ってきた鏡介にそう声をかけると、つっこみ返されてしまった。
しかしまあ、影武者として行かせるって話に戻って考えると、俺以上に自分の身を護れる奴ってことだから、俺が行くよりはよっぽど安全だ。
「そんじゃ、明日はよろしく頼むよ。くれぐれも人に向けてソレ発射しないようにな」
「任せてください」
改めてお願いすると、鏡介は自分の胸を叩いて見せた。