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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
09.幽霊って何ですか
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09.幽霊って何ですか その13

「るんるるんるるーん♪たっのしっみだなー♪」

そしてその日の放課後。部活をサボった俺は、人間フォームになったケイを連れて、シャッターが下りた店がちらほら見える夕方の商店街を歩いていた。

ちなみにここ、信貴しぎは、俺の通学路からは少々外れている。ぶっちゃけていえば、駅一つぐらい遠回りになる。

なんでわざわざ遠回りしてまでこんなところに来たかというと、そこのイチゴショートがケイのお気に入りな喫茶店が、こっちにあるからだ。

「あのお店じゃなきゃイヤだもーん」

今日の昼休み、ケーキを買ってやるなんて言っちまったもんだから、そこに行くハメになってしまったのだ。

「黄色い煉瓦の小道」、月曜日にケイとシデンと紅娘を連れて初めて入った、ケイ曰く「スイーツがおいしい」店。決して大きな店ではないが、コーヒーは美味いと思うし、置いてあるスイーツなんかも甘すぎなくていい。いいんだが、一介の高校生にはちょっと値が張る。そんな店だ。

ちなみに、当のケイはといえば。よっぽど嬉しいらしく鼻歌交じりで俺のまわりをスキップしながら歩いている。

「・・・・・・ま、いいか」

それでも、ケイの本当に嬉しそうな顔を見ていると、それだけでいいような気がした。

「晩御飯が食えなくなっから、ケーキは一個だけだぞ」

「うんっ!」

こっちを向いて、ケイが満面の笑みで頷いた、その時だ。

どんっ。

あまりにはしゃぎすぎたせいか、ケイが近くをとおりかかったグループの一人にぶつかってしまったのだ。

「あ、ご、ごめんなさい・・・・・・」

とたんにしゅんとなり、ぱっと飛びのくとケイが頭をさげる。別にそんな怖がることはないだろ、わざとじゃないんだし、ちゃんと謝ってんだから。

と思ったんだが、今回はぶつかった相手が悪かった。

「あああああっ、てめえはっ!」

ケイがぶつかった、ニット帽を被った男が、俺を見るなりそんな頓狂な声をあげたのだ。それにびっくりしたケイは俺の後ろに隠れてしまう。

それを追いかけて、というわけではないんだろうが、ニット帽の奴がこっちにずんずんと近づいてくる。そいつがまた、どっかで見たような随分とガラの悪い格好をしている。

「おいてめえ、この前はよくもやってくれやがったな、あぁ?」

そして俺の目の前まで来てそんな風に凄んでみせる。

「この前?」

「忘れたたぁ言わせねぇぞ?あんときゃお前、女3人連れてたよなぁ?」

女3人、という発言で、やっと何の話かを思い出せた。こいつは、俺がケイとシデンと紅娘を連れて走りこみをしていた時に、彼女らをナンパして、そして手を上げて返り討ちに遭った連中の一人なんだ。

そいつの発言を聞いて思い出したのか、ニット帽と一緒にいた男たちが数人、こっちに来る。そっちにも、あの時のナンパマンズの誰からしき奴がいる。

と、そっちに気を取られた瞬間、ニット帽が俺のネクタイを掴みあげた。

「おかげで俺ぁ前歯を1本折っちまったんだよ。どう落とし前つけてくれるんだよ、あぁ!?」

そして、鼻息がかかるぐらいまで顔を近づけてくる。

こういう連中は無視するのが一番なんだが、ネクタイを捕まれているのでそれもできない。

「そりゃ災難だったね。で、悪いけど、ネクタイ放してくれない?これから用事があるから」

そして、なるべく神経を逆撫でないように言った、つもりだったんだが。

「てめえなめてんのか!?」

余計に怒らせてしまった。せっかく凄んでみせたのに俺がびびりも何もしないのが気に入らないらしい。しかしここでびびったらあっちの思う壺だ。

なにしろ、俺は何もしていない。こいつの歯が折れたのは自業自得だし、それに、折ったのはシデンが紅娘のどっちか、つまりここにはいないからだ。

「俺ぁ今ムシャクシャしてんだ。てめえの身内だろ、だったらふざけてねぇで誠意見せろや!」

「俺は関係ないだろ!」

と言ったところで、この手のやからには通じるわけもない。

ばきっ。

「ぐはっ!?」

気がついたら、殴られていた。

殴ると同時にネクタイから手を離したのだろう、俺の体は、そのまま舗装された道の上に投げ出された。

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