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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
09.幽霊って何ですか
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09.幽霊って何ですか その9

「陰陽師って、知ってる?」

すると、一瞬だが賀茂さんが眉をひそめた。

「へえ、知ってますけど、なにか」

すぐに賀茂さんは表情をいつもの穏やかなものにする。もうちょっとカマかけてみようか。

「いやね、別に深い意味はないんだけどね。陰陽師を題材にした映画があってさ、そこに出てくる、安倍清明だっけ?が、すごいなって話をしたら、そいつに陰陽師の術を教えたのが、賀茂ナントカっていうやつだって教えられたんで、もしかしたら賀茂さんのご先祖様とかなのかな、と思ってさ」

ちょっとのつもりだったのに、なんかべらべらと喋ってしまった。ふと我に返り賀茂さんのほうを見ると、なんかきょとんとした顔をしている。

一気にまくし立てたから、聞き取れなかったのかな?といぶかしんでいると、不意に賀茂さんが小声で笑い出した。

「ふふふっ、真田はんて、おもろいこと言わはりますなぁ」

なんかコロコロと笑う賀茂さんを見ていると、なんか自分がとても間抜けなことを聞いたような気がする。単純だな、俺。

「まあ確かに、うちのご先祖はんはそないなお人やと聞かされてますけど」

「あー、やっぱりそうなんだ。賀茂なんて珍しい苗字だから、もしかしたらって思って」

「ゆうたらあんさんかて、真田っちゅう有名な武将はんがいてはるやないの?」

「ん、真田って、真田幸村か?」

「違うよぉ!」

そのとき、今まで大人しくしていたケイが、突然声をあげた。

「お兄ちゃんは違うもん!お兄ちゃんのご先祖様は真田幸村じゃなくてさいもごっ」

「わーっ!」

とっさにケイの口を塞ぐ。西園寺、と言おうとしたんだろうが、ここでその名前を出すのはまずいと思ったからだ。

賀茂さんはそんな俺のことをきょとんとした顔で見ている。

「さい?」

「いや、なんでもないなんでもないんだ、あはははは」

自分でやっててもわざとらしいと思うような愛想笑いを浮かべつつ、口を押さえられてじたばたするケイを引きずって賀茂さんからちょっと離れる。

「西園寺の名前はまずいだろっ、頼むからちょっとだけ我慢っ!」

そして、ケイの耳元で小声で言って聞かせる。

「もごおおおおおっ!」

「後でケーキ買ってやるからっ!なっ!?」

「もご、もごもごっ」

よし、大人しくなった。出費は痛いが、この際しかたあるまい。

手を離すと、ケイは開口一番、微妙にすねた感じでこんなことを言った。

「約束だからねっ」

「なにが約束なんどす?」

そこに、図ったように賀茂さんが顔を出す。そのおっとりした口調からはどこまで聞いていたのかは伺えない。

「え、あ、あはは、こっちの話だ。な?」

その場を繕おうとケイに同意を求めたが、ケイはぷいっとそっぽを向いてしまった。

のみならず、すっと立ち上がると俺に背を向けずんずんと歩いていってしまう。

「お、おい」

「お邪魔みたいだから、あっちに行ってる」

声をかけたら、そんな返事を返し、そして出口棟の陰へと消えていった。

「参ったな」

後を追ってその陰へと入るが、そこにはケイの姿はなく、代わりに1台のケータイが、ちょこんと段の上においてあった。

さっき、そこから光が見えたのでなんとなくは予想はついていたのだが、ケータイフォーム(なんか某ロボットアニメみたいな表現だが)に戻ってしまったらしい。

「あ、あれー?ケイのヤツ、どこに行ったんだ?」

俺のことはほったらかしかい、と心の中でちょっと悪態をつきつつ、ケータイを拾い上げると内ポケットへと滑り込ませる。

「どないしはりました?」

戻ると、ちょうど食べ終えたらしい自分の弁当を包みなおしながら、賀茂さんがそんなふうに聞いてくる。

「あ、うん、ケイのやつ、一人で帰っちゃったみたいでさ」

「あらら、うち、嫌われてしもたかなぁ」

残念そうな顔をしながら賀茂さんがそんなことを言う。白々しいと思ってしまうのは、ちょっと先入観をもってしまっているからだろうか。

「それより、真田はん。さっきケイちゃんが言うてはりましたけど、あれ、どういう意味どす?」

その賀茂さんが、頭を上げてそんなことを聞いてくる。

「真田はんの家は幸村はんと関係ありまへんの?ただ単に苗字はんが同しなだけどすか?」

「いや、実家のご先祖様は確かに幸村に続くらしいんだけど、俺は無関係なんだ」

これは本当だ。親父曰く、ご先祖様はかの有名な戦国武将、真田信繁(通称:真田幸村)に繋がっているんだそうだ。意外と知られていないが、幸村の次男が伊達政宗で有名な仙台藩に保護されて、血筋を残していたらしい。もっとも、俺には直接は関係ない話なんだが。

「へえ?どないな意味どす?」

「あ、賀茂さんは知らないのか。俺、養子なんだ」

「え・・・・・・ほんま?」

その瞬間、賀茂さんの顔がひきつった。

「・・・・・・な、なあ、聞いても、よろしおすか?その、養子に入りはる前て、どこにいてはったの?」

「ん?ああ、施設だよ。児童擁護施設。6歳のときに真田の家に入ったんだ」

「・・・・・・ええと、その・・・・・・うち、そないつもりで聞いたんとちゃいますのや、ほんま、ほんまかんにんどす」

そして、すごく申し訳なさそうに頭を下げてきた。どうも、すごく失礼なことを聞いてしまったと思ったらしい。なんかそういう顔をされると、俺が悪いような気がしてしまう。

「別にそんな、気にしなくていいよ。うちのクラス連中はみんな知っている事だからさ」

「せやけど、ほんまは気にならはるんでっしゃろ?」

「いや、あのさ、気にされると余計に気になっちゃうからさ。今は一応、家族はいるし、それに同居人もいっぱいいてにぎやかにしているしさ」

俺がそこまで言って、やっと賀茂さんはほっとした顔をした。

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