02.なんかおかしな展開に その7
今日は掃除当番も部活もふけて、家に直行した。
あいつらが変な騒ぎを起こしていませんように。それだけを祈りつつ、俺は家までの道を走った。いつもよりハイペースで飛ばしたため、家に着いた頃にはさすがに息が上がっていた。
「ぜい、ぜい、よ、よかった、騒ぎ、には、なって、なさそうだ」
とりあえず、部屋の周辺はいつもどおりだった。
息を切らせたままで入るのはかっこ悪いので、ドアの前で息を整える。
そして、いざ入ろうとドアに手をかけたとき。
がちゃ。ドアノブが勝手に動き、勝手に開いた。
「おっかえりなさーいっ!」
そしてその中から、何か人の形をしたものが飛び出して来た。
「わっ!?」
「んもーっ、お兄ちゃんたら黙って出て行っちゃってぇ。ケイ、寂しかったんだからぁ!」
ケイだった。俺の首根っこに力いっぱい抱きついている。
「わ、こら、は、離せっ」
「やーだよっ、だって寂しかったんだもぉん」
「じゃっ、ちょ、ちょっと、緩めてくれ、く、苦しいっ」
抱きつかれるのは嬉しいが、首を絞められているに近いので、マジ苦しい。ちょっと緩めてほしい。しかし、ケイは緩めるどころかますます力を込めて抱きついてきて、さらに頬ずりまでしてくる。
「なんだなんだ、お前ずいぶん人気もんじゃねぇの」
ちょっと目の前が白くなったところで、聞き覚えのある男の声がした。
男?うちに男なんかいたか?と思って必死にそっちに顔を向けると、なんかえらくがたいのいい、見覚えのある奴がニヤニヤしながら立っていた。
「り、りゅう兄!?」
苦しさも手伝い、声が裏返る。
そこにいるのは、実家にいるはずの、俺の義理の兄、現在大学3年生の真田龍之介その人だったのだ。
「なっ、なんでりゅう兄がうちにいるんだ!?」
「なんでって、薄情な奴だな〜。せっかく、わが愛する弟の生活の様子を見に来たって言うのによ」
「だったら、いきなり来ないで連絡のひとつもしてくれりゃ」
「連絡ならちゃんとメールでしたぞ、ちゃあんとな」
って、あのな、携帯電話がこんなになった状態で、メールが見れるかっ!と言おうかと思ったが、りゅう兄はこの子が携帯電話だってことを・・・・・・
「だから言ったでしょ?メール見ないの?って」
「それとも何か?お前、読まれたら恥ずかしいメールでもあるのか?あ、もしかして彼女からのメールとかあるのか?いっちょまえに色気づきやがって、このこのっ!」
と思うと、ケイの耳元で、でも俺にも聞こえるぐらいの声でこう言いやがった。
「女からのメールなんかあったら教えてくれよ?話のネタにすっから」
「ざーんねんでした。ケイ、そんなメールもらったことありませーん」
知っていたよ、こいつは。何で疑問に思わないんだりゅう兄、お前確か大学で物理学を専攻しているはずだろ、こんな物理的にありえん事になに普通に納得してんだ。
「ほらあんたら、いつまで玄関でたむろってんだい」
そのさらに後ろから、今朝初めて聞いたヒビキの声がする。
「ほら将仁も、早く入りな。お客さんが中で待ってんだから」
「客?」
まだ居るのか?というのが正直な気持ちだった。なにしろ、姿が見えるだけでも4人。誰も居なかったはずの1DKにそれだけ入ると、一気に狭くなったような気がする。さらに中には、テルミというメンバーがもう一人。出てこないということは多分その客の相手をしているんだろうが、そうなると本当に狭いぞ、うちの中が。
せめてその客が一人であってほしい、俺は素直にそう願った。
どうも、作者です。
ヒビキが「あいつ」と呼んでいた将仁の兄貴、真田龍之介氏の登場です。
べらんめい口調の江戸っ子なキャラ、の予定なんですが、実はこの人の江戸弁、かなり怪しいです。
江戸ッ子の方、べらんめい口調にあやしいところがありましたら、遠慮なく指摘してください。