09.幽霊って何ですか その5
「・・・・・・プライベートな集いなので、楽な格好でおいでください・・・・・・と言っても、TシャツにGパンじゃまずいだろうなぁ」
1時間目、現代文の授業中、俺は渡された招待状に目を通していた。
さすがアメリカから来たから、というわけではないのだろうが、手触りのいい洋紙に達筆な横文字で書かれている。見たところ手書きっぽいが、誰が書いたんだろうか。あのお嬢様が書いたとは思えないが、もしそうだったとしたらわざわざ俺のために手書きで書いてくれたってことになる、そうだったかもと考えたらちょっとだけ嬉しくなってしまう。俺ってこんな単純だったかな。
で、内容はと言えば。要するに、明日自分の家でパーティーをやるから来い、というもの。こっちの都合なんか微塵も考えていないところなんかはらしいといえばらしいんだが、ただ飯が食えるであろう誘いを断るのはもったいない。あのお嬢様がどのぐらいの金持ちかは知らんが、俺も遺産を受け継げばあいつと張れるぐらいには・・・・・・って、ナニを考えているんだ俺は。
それにしても、明らかに見下している俺をパーティーにさそうなんて、どういう風の吹き回しだろう。もしかしてあのお嬢様、実は俺に気がある・・・・・・なわけないか。あいつが欲しいのは、俺じゃなくて、俺が持っている西園寺の力だ。おそらくこのパーティー招待もその一環で、何とか頑張って自分が俺より上だと見せびらかしたいんだろう。
なんかそう考えると、変なところで一生懸命になっているあのお嬢様がかわいく思えて来てしまった。
「真田はん、真田はん」
不意に声をかけられ、俺は現実に引き戻された。
見ると、クラス中が俺を見ている。そのときになって、俺はようやく教科書朗読の順番が俺に回ってきたことを知った。
「あ、は、はい、えーと・・・・・・・」
急いで立ち上がり教科書を手にする。およそ見当をつけていたはずなのに、なかなかそこが見つからない。あせったらダメだと思うと余計にあせってしまう。
「あ、あー、そんな中で、イカ捕りに続いて始まった実益を兼ねたレジャーで・・・・・・」
なんとかその読む場所を見つけて朗読を始める。正直言って冷や汗ものだった。
読み進めながら、俺は心の中でお嬢様に悪態をついていた。
そして。
「なあマサ、お前あのお嬢様に何やったんだ」
休み時間になると、今朝の野次馬に混じっていたらしいクラスの連中に取り囲まれ、今朝のことについて質問攻めされることになった。なんか知らんが、今週に入ってからずいぶんと注目されるようになってしまったな、俺。そのほとんどはあの傍若無人なお嬢様のせいだが。
「俺はなにもやってない」
「うそつけ」
正直に答えたら速攻で否定された。
「やっぱあれかね、お嬢様だから自分に厳しい態度をとられると弱いとか」
「それはないよー、あの人どう見てもSだもん」
「でもさー、あれだけちょっかい出してくるってことはさー、絶対なにかあるよねー」
「あるある、真田君が何か秘密を握っているとか」
「なにっ、マサお前そんなもの掴んでるのか!?」
「んなわけあるかっ!」
答えようがないので黙っていると、連中は勝手な推論を進めて勝手に盛り上がっていく。
なんか俺と近衛をくっつけたがっているみたいに聞こえるが、正直それは勘弁してほしい。あんなのと毎日つきあっていたらそれだけで疲れるのは間違いない。彼女ができるのは確かに嬉しいが、俺にだって相手を選ぶ権利はあるだろう。
勝手に盛り上がる連中を尻目に、俺はひとつため息をついた。