09.幽霊って何ですか その1
9月22日 金曜日
ぐぉわわわわわわわ~~~~んっ。
「どわああああああっ!?」
その日は、銅鑼のような凄まじい轟音で目が覚めた。
思わず布団を蹴っ飛ばして耳を塞いだ俺の目に、赤い色が飛び込んでくる。
「早上好早上好、はやく起きるヨロシー!早起三文利アルねー!」
それが赤い服を着た女だということには、すぐ気付いた。まあこんな判りやすい口調でよく判らないことを言う奴は我が家には一人しかいないが。
「起きないカ、それナラもう一回行くアル~っ!」
そいつがそんな不穏なことを言うので、思わず跳ね起きる。あんなのをまた鳴らされては敵わないので、止めるために飛び出す。
が、間に合わなかった。
そいつが左手に下げていたでっかい中華鍋を、右手に持っていたお玉で叩く。
叩き方は、せいぜいコンという音がする程度だった。だったのに、音は飛び出した俺自身が空中で撃墜されるほどに凄まじかったのだ。これはもう一種の音波兵器だ。
「くぉらあーっ、紅娘ーっ!やめんかーっ!」
両耳を塞ぎ叫ぶ。今日はどうやら紅娘が起床担当のようだ。
全く、なんでこいつらは普通に起こしてくれないんだろうか。ただでさえここ数日の間に色々ありすぎて疲れてるってのに、そこに朝っぱらからこんな起こされ方をしたら、最後には倒れてしまうぞ、俺。
「あ、起きたアルか。それじゃ早くベッドから出るヨロシ」
騒音の主である紅娘は、全く悪びれる様子もなく鍋とお玉を背負いなおした。
あんなでかい音を聞かされたら、嫌でも起きざるを得ない。ベッドに腰かけた状態で一息つくと、俺は大きくあくびをした。なにしろたたき起こされたようなもんなので、正直まだちょっと頭がぼーっとしている。
しかしいつまでもぼーっとしていても進まないので、着替えるためにベッドから立ち上がる。ふと、そこでなぜか紅娘がまだこっちを見ていることに気がついた。しかもちら見ではなくじーっと凝視している。
「あー、えーと、紅娘」
「気にしないでヨロシ、二度寝しないように見張てるだけのことアルから」
「いや、そうじゃなくて、ちょっと出て行ってもらえね?」
「ほへ?なんでアル?」
「なんでって、着替えるんだよ」
「あー、ダイジョブダイジョブ、襲ったりしないアルか・・・・・・」
そういうことじゃなくて、と言おうとしたところで、紅娘が言葉を詰まらせやがった。そして顔を真っ赤にして俺のある部分に視線を向ける。
言わずもがなだ。俺だって健康な若人、それどころか体力は人並み以上にあるから、生理現象だって元気に起きる。
そして、それをうら若き乙女に見られるのは、恥ずかしすぎる。まさか見たいとか言うんじゃないだろうな。
「ご、ごめなさいアルーッ!」
しかし、どうやらあっちも恥ずかしくなったらしく、真っ赤になって部屋を飛び出すと、ばたんという音を立てて部屋のドアを閉めやがった。ああいう姿を見ると、一瞬であれ「現物を見せて脅かしてやろう」と思ったのが今度は恥ずかしくなってしまう。
だが、着替えを始めようと思って動き始めたとき。閉めたドア越しに、紅娘の声がした。
「あ、えーと、その、き、き、着替え、手伝おアルかっ!?」
そんなのいらんっつーに、手伝われたら逆に俺が暴走してしまいそうだ。・・・・・・って、まさか、ホントに見たいんじゃないだろうな。
だいたい、あいつらが現れて妙齢の女の子がうちの中にあふれ返ったもんだから、今までよりアレは加速度的に溜まっていくのにうかつにナニもできない、モロ生殺し状態なのだ。
ふと、そのときになってようやく俺は、鏡介がいないことに気がついた。あの野郎、いつのまに逃げやがったか。俺より早く起きたんだったら、ついでに俺のことも起こしていってほしかった。男に起こされるのはいまいち嬉しくないが、あんな命を削られるような起こされ方をされるよりはずっとマシだ。しかも、このぶんだと明日も叩き起こされそうだ。誰に起こされるかは判らんが。
愚痴ってもしょうがないので、今日のところは着替えを進めることにした。
どうも、作者です。
連載再開です。
これからしばらく、9日目のネタが無くなるまで連載を続けますので、ご意見・ご希望・ご指摘などありましたら遠慮なく送ってくださいませ。
特に、私は英語が本当に苦手なので、バレンシアの英語のおかしい所など教えていただけると非常に嬉しいです。
それでは、これからもよろしくお願いします。