08.慣れというのは恐ろしい その18
「なるほどねぇ」
ひと通りの説明を受け状況を把握した俺は、毛布に包まった子狐を改めて見た。
うちのモノたちが、全力をかけて助けた命だ、俺としても、助かって良かったと思う。
それにしても、犬や猫、ネズミやモグラとかならともかく、よりによってなんで「化ける」と言われる、言い換えれば妖怪に一番近い動物の狐なんだろうか。まさかマジで妖怪じゃあるまいな、なんてことを考えてしまう。なにしろうちにいるほとんどがモノの化けた(正確に言うと俺が化かした)連中なので、仮にそうだとしてもおかしくはないような気がするのだ。
うーん、類は友を呼ぶと言うしなぁ、そんなのが寄ってくる家なんじゃないだろうな。
そして、そういうモノノケが「いる」前提で物事を考えるようになっていることに、少し悲しくなる。
まあ、悪く考えるとどつぼるだけだ。お稲荷さんの使いでもあるんだから、うちに福をもたらしてくれると信じよう。うん。
「とりあえず、まだ万全ってわけじゃないだろう。常盤さんに話して、明日医者につれていこう」
「OK。じゃア、ミーはnearlyなanimal hospitalをsearchしておくデース」
「ん、気が利くな。それじゃついでに、どんな予防接種が必要かとかも調べといてくれ。しばらくうちに置くことになりそうだからな」
「Leave it to me.(任せてください) ちゃーんとexamine(調査)するデース!」
バレンシアは、そう言って小さくガッツポーズすると、軽快な足取りで2階へと消えていった。さっそく調査にとりかかるらしい。
「あら、いけない。もう夕食の準備に取り掛からないと」
「じゃあワタシも手伝うアル、遅くなてしまたし、二人でやたほうが早くできるアルでしょ?」
「ふふっ、そうね。それじゃ、手伝って貰おうかしら」
「了解アル!」
そしてレイカと紅娘はキッチンへと消えていく。
「あ、そうそう。忘れないうちに言っておきましょう。クリンさん」
「はぁい?」
「あなたには、明日もう一度、床下に入ってもらいたいのでしょう」
「え・・・・・・えええぇぇぇぇ!?」
テルミの言葉を聞いて、クリンが、動きは緩慢ながらも全身で拒絶の態度を示す。よっぽど嫌らしいな、床下に入るの。
でも、テルミがその程度で引き下がるはずもなく、ちょっと厳しい口調で言葉を続けた。
「えーじゃありません。床下には、この子の親御さんがいらっしゃるのでしょう。お外に出してあげないとかわいそうでしょう」
「で、でもぉ、もうお亡くなりになってますよぅ、臭いも凄かったしぃ、ハエさんが飛んでましたしぃ」
「じゃあ尚更でしょう。大体、床下に入れるのはあなたしかいないでしょう」
テルミにぴしゃりと言い切られ、クリンはずぅーんと落ち込んでしまった。
「うううぅぅぅぅ、私ぃ、こんな事をするためにいるんじゃないはずなのにぃ」
そうつぶやくクリンの背中が、すすけているように見えた。
「キツネちゃん、元気になるといいね」
「うむ、我々にこれだけ世話を焼かせたのだ、責任をとって元気になってもらわねばな」
「まあ目立った外傷はなかったみたいだし、目を覚ませばあとは大丈夫だろ」
「目を覚ますまで、見守っていようかなぁ」
「だったらあたしがみてようか?ケイは明日学校があんだろ?」
「あ、そうだったの」
こっちでは、ケイとシデンとヒビキがその子狐を前に何か話し込んでいる。
なんか、こうしているとすることがない。意識が戻らない子狐に何かする気にはなれないし。
「それにしても、すごいタイミングだなぁ」
ふと、今日の昼に学校であったことを思い出す。あれは猫だったが、先生と一緒になってかわいいを連発していたあの二人の姿は、なんかほのぼのするものだった。
あのときは、「うちにペットがいたらいいかもな」と確かに思ったが、まさかその日のうちにペットが出来るとは思わなかった。
「そうっすねえ、ホントによかった。見つかるのがあと少し遅かったらと思うと」
鏡介が、ちょっとずれた相槌を打ってくるが、まあここはそういうことにしておこう。俺もこのチビの命が助かったことは嬉しいのだ。
あとは、常盤さんがどんな反応をするか、それが少しだけ気になった。