07.穏かな日は遠く その37
「このお守り、何か細工がされているようですね」
それは、常盤さんの手に収まっていた。いつのまに取られたのか、全然気づかなかったぞ。
「鈴というものは、形の違いこそあれ、古今東西その清らかな音で人の心を和ませ、魔を祓うために使われてきました」
そんな俺を尻目に、常盤さんは食い入るようにそのお守りを見ている。
「神社の境内にあるのも、その音で場を清めるため。それにあやかって、神社で取り扱われるお守りにも鈴がつけられることがあります。たいていの場合、鰯の頭も信心から、というところですが・・・・・・これは、違います」
そして、鋭い目つきになる。常盤さんは、冗談を言わない人じゃないが、こんな真剣な顔で冗談を言ったことはないから、多分本当なんだろう。
「おそらくは、退魔の呪法ですね」
「退魔の呪法?」
なんかまた、弁護士が口にするにはあまりにうさんくさい単語が出てきたな。
「これは推測ですが、鈴の音が持つ“魔を祓う”要素を、呪法で強化しているのです。それで、普通の人間である将仁さんには影響がないのですが、“擬人”である皆さんには影響があった」
「ちょっと待っとくれ、じゃああたしらは魔物ってことかい?」
常盤さんの言葉に、ヒビキが噛み付く。まあそりゃそうだろ、自分のことをいきなり魔物だなんて言われりゃいい気はしない。かく言う俺も、うちのモノたちを妖怪みたいなものだと今でも心の隅で思っているのはこの際黙っておくことにする。
「でも、 “人間”であるか“擬人”であるか、私たちと将仁くんとの決定的な違いがそこにあるのは事実よ」
「アイヤー、やっぱりワタシ、妖怪変化だたアルかー」
「お、お兄ちゃん?あの音、もうしない?しないよね?」
まもなく、逃げ出したみんなも戻ってきた。
「気にすることはないよ、魔物だろうが妖怪変化だろうが、おまえ等はおまえ等だし、居なくなったら寂しいもんな」
そう言ってやることで、やっとみんなの顔にほっとした表情が戻る。判っていても、自分が魔物だとか言われるのはやっぱ嫌だもんなぁ。
しかし話を戻すが、なんで常盤さんはそういうオカルトチックな事を知っているんだろうか。もしかして、霊感商法とかに関係したことがあるとか・・・・・・でも霊感商法や新興宗教ってのは大抵が人の不安に付け込むインチキだから、そんな知識なんかなくてもいいような気もするし。
「いずれにしても、将仁さん。このお守りの鈴は、極力鳴らさないように注意してください」
常盤さんはそう言いながらお守りを俺に渡す。
言われるまでもない。俺もモノたちを苛めるつもりはない。
だが捨てるのは忍びない。何か裏があったとしても、アレだけ美人の女の子からのプレゼントを捨てるのはやっぱりもったいないもんな。
何人かが恨めしそうな目でこっちを見る中、俺はそのお守りをポケットに入れた。