07.穏かな日は遠く その32
「将仁、そんなかっかすんなって。あんたのダチなんだろ?」
ヒビキ、俺はお前らの正体がばれないか心配してるからこんなことをしているんだぞ。
「そうね、もう6時になるものね」
最初にそう言って立ち上がったのは委員長だった。シンイチに感化されたとはいえ、そういうところはちゃんと締めてくれるのがありがたい。
それに従い、他の連中もぼちぼちと(男性陣は不満いっぱいな様子で)鞄を手に立ち上がる。
その気持ち、わからなくはないが、お前らがいると俺が安心できないのだ。
「あら、帰るの?」
夕食の支度にとりかかっていたレイカが、キッチンから顔を出す。
「せっかく、今日は少し多めに作ろうと思ったのに」
「ここで金とるなんて言うなよな」
「まさか、今はお客様ですもの。ここも料理店じゃないし」
俺の失礼な質問を、レイカは笑って許してくれる。しかしさっきの発言はインパクトが強すぎたぞ。
「レイカさんもああ言ってるし、もうすこしいても・・・・・・」
「殴られたいのかてめーは」
そう言って居座ろうとするシンイチに握り拳を見せると、あっちは降参したように小さなバンザイのポーズを見せる。
「李さん、小籠包とお茶、美味しかったわ。今度作り方を教えてね」
「お任せするヨロシ!」
紅娘よ、そーいうことを軽々しく引き受けるんじゃない、また来ちまうだろうが。
「あ、せやせや」
そんな中、何かを思い出したらしい賀茂さんが、自分の学生鞄の中をごそごそとまさぐると、何か小さなものを取り出した。
「真田はん、今日はおよばれさせてもろて、おおきにな。これ、もろといてくれへん」
そう言って差し出したのは、小さな鈴と赤い紐細工がついたキーホルダーだった。
「これは?」
「うちが身ぃよさせてもろとる、四賀茂神社のお守りどす。こないなもんしかのうて、かんにんな」
「え、そんな悪いよ」
「せやかて、今日はうちらが勝手に押し掛けたんやさかい、なんもせんのも気ぃひけるんどす。そない高いもんやおまへんから、もろといて」
断っても押し付けてくるので、結局受け取ってしまった。何人かのじとーっとした視線を感じるが、だからといってここで突っ返すのもそれはそれで失礼だからな。
「それに比べて、お前らはたかるだけか?」
帰ろうとする連中をじろっとにらむ。ヤジローとシンイチはそそくさと目をそらす。が、委員長は平気な顔でこう言い返した。
「それじゃ、今度真田君が何かしたら弁護してあげるわよ」
「アホ、こいつらと一緒にすんな。まああてにしてねぇがな」
「ならいいじゃない」
なんて感じであっさりとかわされてしまった。