07.穏かな日は遠く その31
「まだいたのか」
制服を脱いで甚平に着替えて下りてきたら、外来種どもはまだリビングでくつろいでいた。テレビもゲームも玩具もないのによく嫌にならないもんだ。
と思ったら。
「なぁに一人で悩んでんだ、このバカチンがぁ」
テルミが、どーいうわけかそのくつろいでいる連中の前で、日本で一番有名な学園ドラマの先生のモノマネをしている。しかもそれが妙にうまい。性別の違い&衣装の違いという絶対的なものがあるのに、その姿が見えてきそうなぐらいにそっくりだ。
これは、さすが元テレビ、ということにしておこう。あの大画面テレビでそのドラマを見た覚えはないが。
それはそれとしてこのモノマネ芸人以上のモノマネは大うけしている。うちのモノどもも一緒になって楽しんでいるのがその証拠だ。見せたことないから珍しいのは珍しいんだろう。
「じゃあ次に、ゆう○りんをやります。似ていたら拍手喝采をお願いしますでしょう」
調子に乗ったらしいテルミが、こんどは別惑星から来たというキャッチフレーズのグラビアアイドルのマネをはじめる。が、素直に始めると思ったら。
「社長は、そろそろ○りん星を爆発させよー言うてるんやろ?」
「それマネージャーですぅ、社長はまだ大丈夫って言ってますぅ」
「んな!?社長はまだイケル言うとんのか!」
一般人イジリに関しては芸能界一と賞される出っ歯関西人と某番組でやったやり取りを一人二役で再現させていた。ちなみに、グラビアアイドルのほうはあの微妙に遅れたテンポの喋り方なんかがクリンと通じるから、ふたりでコント仕立てにするなんてのもありかもしれない。
にしても・・・・・・似ている。テレビでやっているモノマネ芸人は「ホントにそっくりにやる」か「特徴的なところを誇張してやる」かのどっちかだが、テルミのそれはあえていえば前者に相当する。が、そのそっくり加減は相当なものだ。ぶっちゃけて言えば、そっくり度をウリにしているモノマネ芸人の過半数は軽く追い抜ける。なんでそんな芸達者がこんなところでメイドなんかしとるんだと言われたら、返答に困るであろうほどだ。
困ることといえば、こいつらのサービス精神だ。なにしろ、呼んでもいない客なのにあんな芸見せて退屈させまいとしている。そんなことするからこいつらが帰らないんだ。
「お前ら、ホント図々しいな」
「まあまあ、いいじゃないスか」
なぜか入り口そばにいた鏡介になだめられ、俺は部屋の中に引き入れられる。
そして、なぜかヤジローらの前に引っ張り出されると、鏡介のやつがいきなり宣言しやがった。
「それじゃ、鏡をやります」
「はぁ!?」
ちょっと待て、なんだそりゃ。俺は何も聞かされていないぞ!?
そう思いつつ鏡介のほうを向くと、鏡介はその俺と同じポーズ、もとい、鏡に向かったように左右対称なポーズでこっちを向いている。鏡というのは、つまりはそういうことらしい。こいつがはじめて俺の前に現れたときの光景を思い出す。
なんの打ち合わせも無くこれをやるんだから、傍から見たらすごい。よく、一卵性の双子だと意識せずに言葉がハモったりするというが、今の俺の場合、俺はタイミングを合わせようとかはせず、全部鏡介がやっているんだから、ある意味双子のそれよりすごい。
だが、なんで勝手に押しかけてきたこいつらを楽しませにゃいかんのだ、という気持ちがあるので、あまり面白い動きはやってやらなかった。だが、簡単な動きばかりだったのが幸いしてしまったのか、鏡介は本当に寸分たがわず俺の動きをトレースしてみせ、余計にうけてしまった。
「どうも、「ありがとうございましたー!」」
そんなわけで調子に乗ってしまい、最後には思わず二人して漫才コンビみたいに頭を下げてしまった。
「って、ちがーうっ!お前らいつまで居座るつもりだーっ!」
委員長までが完全に腰を落ち着かせて、賀茂さんや紅娘らとまったりとお茶している状況を見て、思わず叫んでしまった。つまらないところからこいつらの正体がばれるんじゃないかとか、何も知らない(はずの)常盤さんがこれを見てどう思うか(常盤さんの場合、クラスメイトが来たぐらいでは怒りはしないと思うが)なんてことを考えると、やっぱり不安になってしまう。