07.穏かな日は遠く その29
「ったく、だからそんなことするなって言ってんだろ」
そして、声の主がワゴン車の中から現れた。
彫の深い、東南アジア系の顔つき。緩やかなウェーブのかかった黒い髪。赤と黒のライダースーツに銀色のマフラー、そして、幅が広く色が濃いサンバイザー。
「ひ、ヒビキ!?」
思わず、俺はその女の名前を呼んでしまっていた。
「あ・・・・・・将仁、いたのかい、参ったねこりゃ」
ヒビキは、目を丸くした俺たちの姿を見ると、とても居心地が悪いように苦笑いした。
「まったく、ひどい乗り心地ね。トラックの荷台のほうがまだましだわ」
そのヒビキの後ろから、違う女の声とともに、また一つ人影が現れた。
季節外れの雪女といったいでたちのその女性は、その紫色のワゴン車から降りると大きく伸びをする。
「れ、レイカまで・・・・・・」
確か、二人とも夕食の買出しに行っていたんじゃなかったか?
「うっす、姐さん、お荷物ですッ!」
あっけに取られて立ち尽くす俺達の目の前で、特攻服の連中がポリ袋に入った食料品をヒビキに差し出した。
ここまで来てようやく、ヒビキがこの暴走族たちを何らかの方法で手なずけたんだと理解できた。
「あー、もういいから、とっとと帰って、メンテしてやんな。もうバカなことすんじゃないよ」
「ウッス、失礼しますッ!」
「「「「「「「失礼しますッ!」」」」」」」
ヒビキがめんどくさそうに手をひらひらさせると、暴走族どもはまるで軍隊のように畏まり、綺麗に頭を下げて挨拶をする。そして、我先にと自分たちが乗ってきたバイクに飛び乗ると、来たときとは対照的に、ものすごい勢いで逃げるように走り出した。
来たとき以上のものすごい爆音が消えると、暴走族はきれいに姿を消していた。
「・・・・・・ヒビキお姉ちゃん、なんかすごかったの・・・・・・」
「・・・・・・お前、何かやらかしたのか?」
「あ、あー、いやちょっと・・・・・・」
「外にいると往来の邪魔になるわ。さっさと中に入りなさい」
俺の質問に歯切れの悪い返事をするヒビキ。それを見かねたのだろうか、レイカが外で立ち話をする俺達を家の中へと追い立てる。
そして、何人かは買い物袋を持たされ、そして家の中に消えていった。