07.穏かな日は遠く その27
「ところで、マサ。お前んちって、でっかいテレビなかったっけ」
やっと開放され、ほっとしたのもつかの間。シンイチの奴が、嫌なことに気づきやがった。
「テレビ?」
「ほれ、あのすっごく高そうなでっかいプラズマテレビ。どこにあるんだ?」
一瞬、血の気が引く。
さらに。
「なあ、冷蔵庫ってどこだ?」
キッチンをのぞいたヤジローがそんなことを聞いてきた。
非常に、まずい。なにしろ、サイズの差はあれ、テレビも冷蔵庫も今の家庭には普通にあるシロモノだ。逆にないほうがおかしいし、シンイチとヤジローは、引っ越す前の俺の部屋にそれぞれがででんと鎮座しているのを見ている。
「あ、い、今、修理に出してるんだ」
とっさに口から出た言葉がそれだった。
「修理?どっか壊れたのか?」
「いや、壊れたってわけじゃないんだけど、ちょっと調子がおかしくて、メーカーのほうに出して調べてもらってんだ」
もちろん、嘘だ。冷蔵庫は今買い物に行っているし、テレビに至っては同じ部屋の中にいる。
ちらっと、そのテレビだったテルミのほうを見ると、テルミは言いたいことを懸命に我慢しているような顔をして立っている。
ごめん、テルミ。俺としては、そんな顔をされると非常に申し訳ない気持ちになるんだが、そんなこと知っているはずもないシンイチは、そのテルミの目の前で、大変なことを口にしてしまった。
「壊れたんだったら、買い換えたほうが早くね?」
「なんてことを言うのでしょう!」
その瞬間。テルミがいつにない声をあげた。
「お客様の発言とはいえ、聞き過ごすことは出来ないでしょう。壊れたらすぐ捨てるなんて、そんなの、ひどすぎるでしょう!
近頃はものを大切にしない人が増えているとよく言われますが、まさかここまでだなんて」
なんかずいぶんと気合が入った言い回しに、シンイチは唖然となる。
「まあまあ、テルミさぁん、落ち着きましょうよぉ」
「これが、落ち着いていられるわけがないでしょう!もうっ!」
クリンが止めに入るが、テルミはそれでも鎮まらない。
「お前も、もう少し考えて発言しろよ。あんな何十万もするようなテレビが、そう簡単に買い換えられるわけないだろ。今の俺がそんな金持ちだと思うか?」
「そうだそうだ、今のはお前が全面的に悪い」
「ケイ、ものを大切にしない人、嫌い」
ヤジローのはともかく、ケイにそう言われたのはダメージが大きいらしい。シンイチの奴、なんかがっくりきている。