02.なんかおかしな展開に その2
下まで降りてきた俺は、ふと、駐輪場においてある赤いバイクに目が行った。
俺が免許を取った折、兄の龍之介が餞別だってことでくれた、カワスギ社製、排気量400ccのオフロードバイクだ。400ccというとバイクではそんなに大きいほうではないが、「オフロード仕様」となると俺が知る限りかなり大きなクラスになる。
俺が免許を取ろうと思ったのも、もとはといえば兄貴がバイクに乗っている姿に憧れたからだった。その時に乗っていたのがこのバイクなので、ある意味このバイクに憧れて、俺は免許を取ったとも言えるのだ。
ちなみに、元の所有者だった兄貴は、最近、車を買ったんだそうだ。二輪から四輪に乗り換えたということ、なんだろーかね。
そういえば、最近はあまりこいつに乗ってない。うちの学校は2輪免許の所持はOKなのだがバイク通学禁止となっているし、実は結構ガソリン代がバカにならないんで、実家から持ってきたはいいがあまり乗っていないんだ。
「そうだなぁ、こんどの日曜あたりに、久しぶりに乗ってみるかな」
ちょっと申し訳ない気持ちになりながら、なんとなく、サドルを撫でた。
その瞬間。
聞き覚えがある、甲高い、耳鳴りのような音がした。
そして、同時にこれもまだ記憶に新しい、暴力的なまでに凄まじい光があたりを包んだ。
「ちょっと待てーっ!」
そう思う間もなく、目の前が真っ白になっていった。
それからどのぐらいの時間が過ぎただろうか。
「よう」
突然、俺の首周りに、誰かが腕を回してきた。
「将仁ぉ。お前、最近付き合いが悪いんじゃないかい?ええ?」
その腕は、そのままヘッドロックをかけて、さらにコブシをグリグリと押し付けてくる。
「んがががが、イタイイタイイタイっ」
なんで朝っぱらからヘッドロック&グリグリなんかされなきゃならないんだ。
渾身の力で引っこ抜くと、その勢いで後ろにひっくり返ってそのまま1回転してしまった。
「っ、な、なんなんだよ一体」
地面にぶつけてしまった頭をさすりながら顔をあげる。
そこには、見覚えのない人が立っていた。
全身を赤と黒のライダースーツに包み、首に銀色のマフラーを巻いた、背の高い日焼けした女の人だった。なんか、ライダーかレーサーみたいだ。ヘルメットを被っていたらもろライダーだが、彼女はそのかわりに幅が広く色が濃い、サンバイザーをしている。
ゆるやかなウェーブのかかった黒い長髪を背中に流し、顔つきは彫が深く、日焼けしていてマレーシアとかタイとかあっちのほうのルックスをしている。そして強気なそのまなざしは俺をしっかりと捕らえている。
「だ、だだだ、誰!?」
「誰ってのはごあいさつじゃないか。あたしを呼んだのはあんただろ、将仁」
そのライダーな人は、俺の顔を覗き込みながらそう言い放ってくれる。
「・・・・・・ってことは、まさか」
「ああ、そのとおり。あたしは、最近めっきり使われなくなった、あんたのバイクだよ」
そして、ぎろりと睨まれる。
なんというか、ずいぶんとワイルドなのが出てきたもんだ。もしかしてオフロード仕様だからか?
なんて言っている場合じゃない。なんか、変なことを言ったらぶん殴ってきそうな雰囲気がある。殴り合いだったら俺も多少は自信があるが、なにしろむこうはバイクだ。ケイやテルミの件から想像するに、外見は人だが、中身にエンジンの馬力とかスピードとか何かを持っているに違いない。
「いや、それはその、うちの学校はバイク通学ができないからで」
しどろもどろになっていると、そのバイクだと言う女の人は、ふっと表情を緩めてにかっと笑った。
「あっはははは、そんなビビるなって、将仁。こう見えても、あたしを呼んでくれたことは感謝しているんだぜ?偶然だったとしてもさ」
思わずほっと息を吐いてしまった。よかった、どうやら怒ってはいないらしい。
「ただ、判ってるよな?」
再度、バイクだった人がずいっと顔を近づけてくる。
「な、な、なんでしょう?」
「とぼけんなよ、名前だよ、あたしの名前。変なのをつけたら、その時は・・・・・・判ってるよな?」
指先でサンバイザーのひさしをくいっと突き上げる(どうやらひさし部分は可動式らしい)。その目に、再びあの鋭い光が灯る。思わず震え上がってしまう。バイクに乗った人にならともかく、なんでバイクに脅されにゃならないんだ、俺は。
「うぅ、判ったよ、ちょっと待ってくれ・・・・・・ん、じゃあ、ヒビキってのは、どうだ?」
「ヒビキ・・・・・・?」
バイクの人は、噛み締めるようにその名前を繰り返した後、一転してにっと笑った。
「ふふん、やるじゃないか。じゃああたしは今日からヒビキだ。よろしくな、将仁」
そしてライダーグローブをはめた右手を差し出してくる。ちょっと戸惑いながらその手を取ると、ぐいっと引っ張りあげられた。
やっぱりエンジンを積んでいるだけあって見かけ以上に力がある。殴り合いにならなくて良かった、と、素直に思ってしまった。
名前の由来が、元になったバイクが、特にフカしたときの音が異常に大きく響くから、というのは、伏せておこう。
だが、ほっとしたのもつかの間、俺は現実に引き戻されてしまった。
「わぁっ!?」
いつのまにか、俺とヒビキのまわりにやじ馬ができていた。
「ちょ、ちょっと、すいませんっ!」
思わず、ヒビキの手を取ってその場から駆け出してしまっていた。
まいど、作者です。
3人目の擬人化、剛力姉御バイク、ヒビキの登場です。
擬人化モノではこーゆーアネゴ的キャラってのはちょっと珍しいと思います。
あまり萌えないかもしれませんがw
では、次回作をお待ちください。