07.穏かな日は遠く その16
「シデン、おまえ、なんでそう誰に対してもすぐケンカ腰になるんだよ。悪い癖だぞ、ちょっと落ち着けよ」
まずはよく知っているシデンに声をかける。続いて「委員長も委員長だ」と切り返し、喧嘩両成敗、と持って行こうかと思ったが。
「じ、上官こそ、なぜ我をいつも悪者にしようとするのだ!我は、我は悪くないっ!」
なんて言われてしまった。俺はそんなつもりはなかったんだが、声に出してそう言われてしまうと、俺が悪かったような気になってしまう。
「晴香も晴香だよ。あっちはまだ子供じゃないか、お前が大人の態度をとれよ」
「そうどすえ、あんさんはうちのクラスの委員長はんなんでっしゃろ。落ち着きなはれ」
見かねたシンイチと賀茂さんが、委員長のなだめに入ってくれた。だから、俺はとにかくシデンをなだめることに集中することにした。
「お前を悪者扱いしたのは謝る。確かにそれは悪かったよ。でも、今回はむこうは何もしていないじゃないか。そこに言いがかりをつけるのはまずいだろ」
「わ、わ、我は悪くないっ!我はぶ、無礼を働く輩を、成敗したのだ、誉められこそすれ、せ、責められるいわれはない、我は悪くない、悪く、ない、のだ」
どうやら、シデンは「自分にも落ち度があったことは分かっているが、認めたくない」らしい。わかりやすいといえばわかりやすいが、そこで涙目になるのは反則だろう。
「全く、世話が焼けるね、お前は」
こんな事で泣かれてはかなわんので、シデンの頭に手を乗せ、軽く撫でる。こうすればこいつがおとなしくなるのは証明済みだ。
「ひょ!?」
案の定、シデンは一瞬体を硬直させておとなしくなる。
「お前、おとなしくしていればかわいいんだからさ。少しはおとなしくしてなって」
おとなしくするため、もう少し撫でながら説得する。
「う、し、しかしだな」
「心配してくれるのは嬉しいけどさ。な」
なでなで。
「わ、我は・・・・・・別に」
「あとで餡蜜おごってやるから、な」
なでなで。
「・・・・・・ふ・・・・・・」
しばらくすると、シデンはすっかり大人しくなった。ここまで効果があるとは思わなかったが、静まってくれたからいいとするか。・・・・・・なんか顔が赤いような気がするが。
「さて、それじゃ。自己紹介・・・・・・」
大人しくなったシデンの背中を押して前に出、そうとして、ちょっと戸惑う。
なんでって。うちに押しかけてきた外来種どもが、妙に興味津々な目でこっちを見てるからだ。
「なんだ、お前ら、その目は」
「いやぁ、最後の朴念仁と呼ばれたあのマサが、女の子をこれだけなだめられるなんてなぁ」
「うん。ちょっと、真田君を見る目が変わったかも」
「・・・・・・なんか、負けた気がすっぞ」
「・・・・・・おまえらなぁ」
苦笑してしまう。こいつらは俺をどこまでの朴念仁にしようとしているんだ。
「うち、昨日来たばかりやさかい、よう判らへんねやけど、そやったんどすか?」
見ろ。なんにも知らない賀茂さんが信じちゃったじゃないか。
このままでは話が進まんので、話題を変えることにする。
「ほれ、挨拶、挨拶」
言いながらシデンの背中を軽く押す。
すると、シデンは紅くなったままこっちを恨めしげな目でにらみつけてから、押しかけクラスメイトたちに向き直る。
「中嶋、紫電だ」
そして、ぶっきらぼうにそう言い放ち、深々と頭を下げた。