07.穏かな日は遠く その14
「皆さん、ようこそおいで下さいました。私は、当家に仕えるメイド、三石輝美と申します。ご案内しましょう、どうぞこちらへ」
そしてテルミは手を奥に差しのべ、そして歩き出した。なんか、ホントのメイドさんみたいだ。
そういや、今、ミツイシとか言ってたな、オリジナルの苗字をつけたのか。ちょっと心配だったんだが、バレンシアはちゃんと話をしておいてくれたらしい。
そうなると、他の連中も何かオリジナルな苗字を考えているのかな。
「では、しばらくここでお寛ぎください。何か御用がおありの際は、遠慮なくお呼び下さって結構でしょう」
俺らを全員リビングに案内したテルミは、そのままお辞儀をして出て行こうとする、
「テルミ、ちょっと待ってくれ」
俺は、そのテルミを呼び止め、そして近づいた。これからのやり取りは、聞かれると少々まずいからだ。
「はい?」
「こいつのこと、頼む」
他人に聞こえないよう小声でいいながら、ポケットに入れていた携帯を手渡す。
「これは、ケイさんですか?」
察してくれたらしく、テルミも小声で返す。返事するように、ケータイの電飾がチカチカと光る。
「ああ、こいつのことだから、多分出てきたがると思うんだ。でもここで変身させるのはまずいだろ?」
「ふふっ、了解でしょう」
テルミは、すぐ納得して携帯を受け取ってくれた。まあここは事情が判るもの同士だからな。
「じゃ、頼むよ」
「はい、お任せください」
言いながらテルミから離れると、テルミもそれに応えてにっこり笑い、そしてリビングを後にした。
とりあえず、第一の難関は突破、といったところか。他の連中がどういう設定で来るのかを把握していないのでこれからがドキドキものだが、とりあえずなんちゃらの擬人化だとぶち上げられることはないだろう、と思う。
「おいマサ、今の、本物のメイドだよな?」
「へ?あ、すまん、聞いてなかった。なんだって?」
色々考え事をしていたら、不意にシンイチに声をかけられた。
「いや、だからな。あのメイドさん、本物だよな?なんちゃってじゃないよな?」
「は?まあそりゃ、多分」
「いーよなー、家事を専門にやってくれる人がいるなんてなー」
その横で、うんうんとヤジローが頷いている。と、その顔をはっと上げて聞いてくる。
「もしやあの弁当はあのメイドさんが!?」
「ん?いや、違うぞ」
「なにいぃーっ!?」
正直に答えると、ヤジローはどっかのマンガじみた絶望の表情になる。
こいつは、相当俺の弁当を作った奴を知りたいらしい。まあ基本的になんでもできるテルミなら、弁当ぐらい作れると思うが。
「この、この、この、贅沢モンがっ!メイドさんだけじゃ不満か!」
かと思うと、また胸倉を掴んでがっくんがっくんとゆすってくる。お前、そんなにメイドが好きだったのか。なんてなことを考えながら揺さぶられていると。
「そこまでだ」
そんな声とともに、ヤジローの手首が、横から伸びてきた手に掴まれた。