07.穏かな日は遠く その13
それからおよそ1時間後。
俺たち5人は、閑静な住宅街を歩いていた。
「お前、こんなところに住んでいるのか」
ヤジローが声をかけてくる。
このへんは高級住宅街らしく、結構大きな家が多い。この前まで俺が住んでいたところを知っているこいつからすれば、確かに雰囲気はまるで違うところだ。
「ほれ、ここだ」
家についたので、ついてきた連中に向かって声をかける。
すると、シンイチとヤジローはぽかんとした顔になった。
「・・・・・・ずいぶん大きな家ね・・・・・・」
委員長も予想外だったらしく、驚いた顔をしている。まあ、無理もないか。今住んでいる俺だって、最初はびっくりしたもんな。
「・・・・・・ふーん・・・・・・」
唯一、賀茂さんだけはそんな驚いた顔をしていない。京都のほうじゃこのぐらいの家は珍しくないのだろうか。
「・・・・・・おい」
ようやく我に返ったらしいシンイチが声をあげた。
「お前、いつのまにこんな金持ちになったんだ?」
今度は、俺が固まってしまった。・・・・・・金持ち、という言葉にだ。
俺は、西園寺家の最後の継承者、そしてその遺産は総額五千億円。確かに金持ちだ。
だが、考えてみたら、その遺産の話はうちのクラスの奴らじゃ誰も知らないんだった。西園寺という言葉が俺と何か関係がありそうだということは知れているだろうが、その「西園寺」が何かを知っているのはうちのクラスにはいないはずだ。
「だといいんだけど、これ、俺の家じゃないのよ。俺はただの居候なんだよね」
だから、ここは適当にごまかしに入ることにする。まあ実際、相続していないからまだ俺のものではないし、この家の所有者は常盤さんだ。
とにかく、ここまで来ちまったもんはしょうがない。腹を決めるか。
「言っとくが大したモンはないぞ」
一応、釘をさしてから、ドアを開ける。
「将仁さん。お帰りなさいませ」
すると、そこに一人の女が立っていた。黒いマントの下にメイド服を着込んだ彼女は、ノックもなしに入ってきた俺たちに対して、怒るどころか、丁寧なお辞儀をして、にっこりと微笑みかけてきた。
テルミだった。どうやら待ち構えていたらしい。
「め、めっ、メイドぉ!?」
その女を見て、今度はヤジローが声をひっくり返した。
「こ、ま、マサ、なんでお前ん家にメイドがいるんだよ!?」
「わっ、ちょっと待て、だからっ、俺のじゃないって!」
そして、人の胸倉を掴んで、渾身の力でがっくんがっくんゆすってくる。お前そんなにメイドが好きだったのか。
「ふふっ、将仁さんのご学友だけあって、元気な方でしょう」
止めてくれるかと思ったんだが、テルミはにこにこと笑っているだけだ。
しかしメイド好きらしいヤジローには十分効果があったようで、ぱっと手を離しやがった。