07.穏かな日は遠く その11
「おい、マサ。お前、今日は部活休め」
帰る準備をしていると、いきなりヤジローのやつがそんなことを言ってきた。
「今日は、お前んちにみんなで行くことに決まったから」
「な、ちょっと待て、俺は何も聞いてないぞ!?」
「女と同棲するような奴の都合なんか誰が聞くか」
ヤジローの奴は、臆面もなくそんなことを言ってくれる。しかもどうやら本気らしく、シンイチや委員長も荷物をまとめて待ち構えている。
・・・・・・非常に、まずい。
なにがまずいって、うちにいるモノたちを、どう言えばいい。
こいつらの目的は、ほぼ間違いなく「俺が同居している相手に会うこと」だ。俺がいやだと言っても強引に押しかけてくるだろう。そして、来たら絶対にうちのモノの誰か(下手すれば全員)に会う。
そして、非常にまずいことに、学校の連中にはモノたちのことを「親戚」と言っているが、こうなることは想定していなかったので「モノたち」にはそのことを伝えていない。
「ちょ、ちょっと待ってろ、うちに話をする」
とりあえず、何も知らせないわけにはいかない。ポケットからケータイを取り出し、開きながらヤジローたちから離れる。
ついてこようとするシンイチとヤジローの耳を委員長が引っ張って押さえてくれている。
「もしもし、ケイ?」
「あ、お兄ちゃん」
開けてすぐ耳に当て、声をかけると、ケイの返事が返ってくる。
「悪いけど、今すぐ家につないでもらえないかな。今のことを伝えなきゃならないから」
「今のって、お兄ちゃんのお友達がおうちに来るって言ってたこと?」
「ああ。同居者は親戚だって言ってあるから、それだけでいいから口裏を合わせてほしいんだ」
「ホントに来るのかなぁ?」
「来るなって言ったって、あいつらのこったから、多分強引についてくるだろ。でも一回会わせれば、納得すると思うんだ。だから、今のうちに会わせておけば」
「うん、判った。えっと、うちっていうと、常盤さんのところかな?」
「ああ、頼む」
すると、少しの沈黙の後に呼び出し音が聞こえた。と思ったら、ちん、という音がしてから、今度は声が聞こえてきた。
「Hello. This is Tokiwa lawyer office. Miss Tokiwa cannot take your call now.(はい、こちらは常盤弁護士事務所です。ミス常盤は唯今留守にしています。)」
留守電メッセージのつもりだろうか。事務的だが思い切り英語だ。コラ、ここは日本だぞ。しかもこの声は。
「何やってんだバレンシア」
「Oh、this voiceはMasterデスねー。May I help you? (何か御用ですか)」
相手が俺だと判ったとたん、バレンシアの口調がいきなりフランクになった。