07.穏かな日は遠く その10
同じころ、こちらは校舎の屋上に、ひとつの影があった。
その影は、屋上の柵に寄りかかり、両手を変わった形に組み、意識を集中するように手を組んでいる。
そこに一陣の風が吹き、くせのない黒髪とチェックのスカートを揺らす。
「ふぅん、あない正体を隠してはったんか・・・・・・」
形の良い唇が動き、言葉が漏れる。
ふと思い出したように、その女が顔をあげて空に目をやる。
すると、そこに一羽の赤い鳥が飛んできた。
女が、鳩程度の大きさがあるその鳥に向けて手を差し伸べる。すると、それが判っていたかのように、小鳥は女の手のひらに留まった。
手に止まったその鳥を、女はそっと自分の顔と同じ高さにまで持ってくる。
「おつかれはん、戻ってよろしおすえ」
そして、鳥に向かってそう言うと、ふっと息を吹きかけた。
すると、その鳥の姿が背中から脱皮するように姿を変え、そして、中央に星が描かれた掌大の長方形の紙となった。
その星の真ん中に、手も触れないのに小さな火が灯る。
「旧華族、西園寺家に伝わる物部神道。日本古来の宗教観、八百万の神を具現化する業。昨日見たときはまさかぁ思うたけど」
火が紙全体に瞬く間に燃え広がり、灰となっていく様を眺めながら、その女が独り言を言う。
「まさか、電気製品をまるごと変えてまうほどのモンやとは思いもせえへんかったわ。他にもいはるようやし、しばらく探りを入れて、その上で作戦の練り直しをしたほうがよろしおすなぁ」
そして、面白いものを見つけたように、くつくつと笑った。