07.穏かな日は遠く その8
ワンテンポ遅れて暇人どもが動き出すがもう遅い。
だんっ、だんっ、だんっ!
そして、我に返った時。俺の体は、宙に浮いていた。
なんかまわりの風景が妙にゆっくり動いている。後ろのほうで騒ぎが聞こえる。
下に目をやると、結構遠いところに、地面が見えた。いや、見えただけならともかく、少しずつ近づいて来ている。
忘れていた。ここは、2階だったんだ。つまり俺は、2階の窓から飛び出したということになる。
ざっ。
しかし、状況が判れば、2階ぐらいの高さならたいしたことは無い。多少高いところから落ちるのは慣れているので、俺はなんとか体勢を立て直して地面に着地した。下が土だったこともあり、また足から着地したので少々足首が痛いが、動きに差し障りがあるほどではない。
上を見上げると、うちのクラスの奴らが、窓から身を乗り出し、こっちを見ている。
みんな、あっけに取られていて動く様子は無い。無いんだが、今度は下の(今は俺と同じ高さにある)教室が騒がしくなってきた。上の階から人が落ちてきたんだから当然か。
これはちょっとやばいかも。そう思った瞬間、俺の脚はその場から駆け出していた。
「あっ、に、逃げたぞ!」
「追えーっ!」
俺が走り出すのとほぼ同じタイミングで、硬直が解けたらしいクラスの連中が騒ぎ出す。しかしさすがに俺みたく窓から飛び出そうとする奴はいないようだ。これでしばらくは時間が稼げる。
その隙に、俺は校庭の南にある並木へと急いだ。あのへんなら多分誰もいないだろう。
そこについてみると案の定誰もいない。校舎に近いところには外で飯を食うやつもいるが、さすがに校舎から遠いこのへんまでは来ていない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
さすがに疲れてしまった。バッグを地面に置き、木に寄りかかって懸命に息を治める。
「お兄ちゃん、大丈夫?はい、お茶」
いつのまに人の姿になったケイが、バッグから水筒を取り出し、お茶を注いで差し出す。
礼を言って受け取ると、一気に飲み干す。魔法瓶なのでまだ暖かかったが、がぶ飲みしても問題ない程度だ。そして、飲んだ後味はとてもさっぱりしている。ちょっと漢方薬っぽい匂いが残っているから、ただの烏龍茶というわけではなさそうだ。
「ふーっ」
飲み干したところで、そのままそこにしゃがみこむ。まさか、弁当持ってきただけであんな騒ぎになるとは思いもしなかった。人間のネガティブなエネルギーってのは凄いもんだ。
だが、考えてみたら俺も少し前まではあっち側にいたんだよな。そう考えるとちょっとだけ申し訳ない気分になった。