07.穏かな日は遠く その5
今日の朝礼はいつも以上に長かった。なんでかっつーと、新しい養護教諭、つまり保健の先生が来たことに端を発している。今もすでに一人いるんだが、新しい試みとして2人目の養護教諭を置くことになったんだそうだ。
そのお披露目がこの朝礼だった。名前は「由利水江」。背は高いほうで体格は細め。養護教諭の資格を取ったのが去年だったと言うから今いる保健室の先生よりはかなり若いはずだが、なんというか、年の割にすごく地味な印象を受ける人だった。最近美人がまわりに増えてきたのでそう思ったのかもしれない。
その人は自己紹介も控えめだったが、その後の校長の話が長かった。新しい試みを行う、ということがスイッチだったらしく、「皆さんはまだ若いのだから、何事にもチャレンジしよう!」なんて言い出してえらく長くなってしまい、気がついたら朝のホームルームの時間までつぶれてしまった。
「ふー、ほんま足が痛いわぁ。ここの校長先生って、いつもこんな長話ですのん?」
席に着いた賀茂さんがまわりのクラスメイトにそんなことを言っている。どっちかというと愚痴か。
「なんで校長の話ってどこに行っても長いんだろうな〜、小学校のも中学校のも長かったし」
「年寄りは長話したくなるんじゃねーの?」
「若い保健室の先生って、憧れはあったけど、アレってなんかイメージと違うよな」
「マンガじゃあるまいしそんな都合よく行くかよ」
ヤジロー、お前は養護教諭に何を期待しているんだ。
「冷めてるねぇ、やっぱ親戚とはいえ女の子と同居するようになった奴は違うってか?」
「なっ、シンイチなに言ってる!」
「なにっ!?こらマサてめぇ、女と同居だとぉ!?てめぇムッツリだったのかぁ!」
その瞬間、俺はヤジローに胸倉を掴まれていた。
「わっコラバカ違う違うそんなんじゃないっ!」
「じゃあなんだってんだよぉ!昨日といい今日といいなんでお前の周りにばかり女が集まるんだよぉぉっ!」
ヤジローの奴が血の涙を流して俺をがくんがくんと思いっきりゆする。何でお前はそんなに必死なんだ。
と、その時ばしんっと何かを叩く音がして、俺の胸倉から手が離れた。
開放されたついでに自分の席に腰を下ろし、乱れた胸元をなおしながら前を見る。すると、頭を抱え変な声でうなる坊主頭と、それをにらみつけるメガネの女子がいた。
「もう授業が始まるわよ!いつまで喚いているの!」
委員長だった。手には1時間目に使う英語の辞書を抱えている。まさかあの辞書で殴ったのか?痛いぞこれは。
「ヤジローの奴もワンパターンだねぇ」
それを、俺のななめ後ろの席に座って見ていたシンイチが、ちょっと呆れたようなようすで眺めていた。
「そこもっ!授業が始まるわよ、準備はどうしたの!」
と、その怒りの矛先がこっちに向かう。
あわてて、俺とシンイチはかばんの中から教材一式を取り出したのだった。