07.穏かな日は遠く その3
「ふーっ・・・・・・しんどかった・・・・・・」
人の波に流され、改札を出たところで一息つく。
ちょっと早めに出ればピークに当たらないと思ったのだが、それが甘かった。それどころか今日のほうが混んでいたような気がする。
ちゃ〜ちゃ〜ちゃららぁらぁ、ちゃ〜ちゃらぁ〜。
柱にもたれかかって一息ついていると、ケータイの呼び出し音。この某宇宙人映画の呼び出し音はケイからだが、なんかバッテリー切れ寸前みたいにヘロヘロだ。
「どした、ケイ」
「ふにゅ〜、なんか今日って、昨日より混んでたみたい〜」
ケイのほうも相当まいっているみたいだ。
「こんなのに毎日乗っているんだから、日本のサラリーマンは強いはずだよなぁ」
「ううぅ、ケイのお友達はみんな毎日こんなところにいるのかなぁ、なんだかかわいそう」
うーん、お友達っていうのは他のケータイのことなんだろうが、すし詰め状態のサラリーマンのポケットにそれぞれケイみたいな子が入っているのを想像すると、なんか眩暈がしてくる。
「シュールな世界だな・・・・・・」
「えっ?なに?」
「あ、いやなんでもない。えーと今何時だ?」
「7時53分だよ」
「おい、マサじゃねぇか?」
「うぇ!?」
いきなり聞き覚えのある声が後ろからかかった。思わずケータイを落としそうになる。
「あら、本当。真田君って徒歩通学じゃなかった?」
振り向くと、制服姿のシンイチと、委員長の佐伯がかばんを持ってこっちを見ていた。
「ねぇ、どうしたの?」
なんとか持ち直したケータイから、ケイの声が聞こえる。
「ごめん、クラスの奴だ。ちょっと切るぞ」
「えぇーっ!?」
「後でちゃんと埋め合わせするからさ、頼むよ」
「・・・・・・もーっ、しょうがないなー。その言葉、忘れたら怒っちゃうからね(ブツッ)」
向こうから切りやがった。機嫌を損ねてしまったかな。
それはともかくとして。俺は、大急ぎでケータイをポケットにしまった。
「今のは誰でぇ?」
その後ろからぬらっと首を出したシンイチが、ねちっこい口調で聞いてくる。
「な、なんだよ」
「ちーっと聞こえたけど、年下っぽい女の子の声だったよなー。知らなかったなぁ、お前ロリコンだったんだなぁ〜」
「は?ちょっと待て、なんでそうなる」
「となりにあんな美人が来て、昨日は机まで一日くっつけっぱなしだったのになぁ。ロリコンはいかんよロリコンは」
「こらてめぇっ!勝手に人をロリコンにするな!」
「へへっ」
とっ捕まえてやろうかと思っても、シンイチの奴は動きに変なフェイントを織り交ぜていて捉えることができない。本気でぶん殴ってやろうかとも思ったが、朝の駅前でケンカなんかやってらんないもんな。
ふと横を見ると、そのシンイチを御することができる人間が、じゃれる子供を見るような暖かな目でこっちを見ていた。
「おいこら佐伯!お前委員長だろ、止めなくていいのかよ!」
「あら、友人のコミュニケーションに水をさすほど、私は野暮じゃないわ」
「そーいう問題か!」
お前、夏休み前はがちがちの堅物だったのに、二学期になってからキャラが変わりすぎだ。
これはすべてシンイチが懐柔したのか?だとしたら恐るべきシンイチ、である。
「そろそろ時間ね。二人とも、そろそろ行かないと遅刻するわよ」
その委員長が、腕時計を見てからやっと止めに入る。するとシンイチはあっさりと止まった。
結局そうなるまでシンイチの奴は捕まえられず、そして時間もないので、3人そろってそこから駅に向かって歩き出したのだった。