07.穏かな日は遠く その1
9月20日 水曜日
「おはよーございまーす!」
その日は、突然のケイのそんな声で明けた。
うん、これは夢だ。ねぼすけのケイが俺より早く起きるはずがない。
そんなことを思いながら夏掛けの中でもうちょっと惰眠をむさぼろうとしていると、今度は誰かが俺の体をゆさゆさと揺すりだした。ずいぶんリアルな夢だな。
「ほぉらぁ、お兄ちゃん、朝だよ〜!起きないと遅刻しちゃうよ!」
「ん、あと10分」
邪魔されないよう布団に潜ろうとしたときだ。
「んもう、そんなのだめ!今日は全体朝礼があるから早く出ようって言ったのはお兄ちゃんでしょ!えいっ!」
「ぐえっ!?」
突然、体の上に何かが乗っかってきた、ちがう、落ちてきた。これはヒザだ。ニードロップだ。全体重を乗せた膝が、布団の上から俺のどてっ腹にめり込んでいるのだ。
「はーやーくー、起きなさいーっ」
すかさず今度は鼻を摘まれた。って、マジで痛いじゃねえかコラ。こっちは無抵抗だぞ!?
「起きた?」
たまらず開けた目の前に、顔があった。全力のケイの笑顔だ。
「わあぁっ!?」
普通なら驚かないだろうが、あまりに距離が近い。近いので、思わず突き飛ばしてしまった。
「きゃあぁあっ!?」
人間にしてみたら超軽量級のケイは、驚きの表情で空中に放り出される。
そして、落ちた。
「ぐえっ!?」
どすんという音に混じって、今度は男の声がした。
なんだ?と思って、体を起こしてベッドから下をのぞいて、見えたのは。
尻餅をついたケイ。夏掛け布団。
そして。
「うぐううぅっ・・・・・・」
その2つの下敷きになり、必死になって這い出そうとしている寝巻き姿の男。
「きゃあああっ、鏡介お兄ちゃん、大丈夫!?」
それこそ、鏡介だった。
「な、なんで朝から、こんな目に・・・・・・」
「ごめんなさーいっ、でも悪いのは突き飛ばしたお兄ちゃんだから文句はお兄ちゃんに言ってねーっ!」
「どさくさにまぎれて変なこと言うな!おい、鏡介、大丈夫か!」
「す、すいません、将仁さん」
ケイと二人で引き起こすと、鏡介はやっと顔をあげた。
「迷惑ついでに、ヒビとか入っていないか、見てもらえないっすか」
「ヒビ?」
柔軟性のある肉体になったんだからそんなもん入らないと思う(入っていたらすごくシュールだ)んだが、痛いというので見てみることにする。
寝巻きの背中をめくってみると、案の定ヒビらしきものはなかった。それを鏡介に伝えると、鏡介のやつはなんかほっとした顔になる。
これが女の背中だったらちょいと楽しいんだが、男の、しかも俺と同じ姿の奴のものでは面白くもなんともない。
だが、ケイには少々刺激的だったようで、顔が真っ赤になっていた。
どうも、作者です。
ちょっと更新が滞ってしまいました。
いないとは思いますが、もし気にされている方がおられましたら、改めてお詫び申し上げます。
それでは今後もよろしくお願いします。