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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
01.それは一本の電話から始まった
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01.それは1本の電話から始まった その13

「ふぃーっ」

今日は久しぶりにシャワーではなく湯船に入る。

なんか今日は、学校を出てからやたらと変なことが起きて、ムチャクチャに疲れた。はっきり言ってしまえば、学校からの帰り道に異次元の扉をくぐったような気分だ。

「夢ってことはないよなぁ、さっきの火花は痛かったし、今、風呂に入っていてあったかいし」

湯船の中でぼりぼりと体をかくと、ずれのないタイミングでそれが感じられる。やっぱり夢じゃない。

が、繰り広げられる現象はまるで夢、いや、夢でもなかなか実現できないような話だ。

俺、本格的におかしくなったのかな。それともとんでもない妄想症になったかな。

他人に相談するにしても、真面目に受け取りそうな奴はいないだろうし、いたとしても唯一の通信手段である電話があんなことになったのではもう手詰まりだ。

「ええいもう考えるのは止めた!」

どんどんどつぼにはまっていくような感じがしたので、俺は顔に湯をかけて頭の仲を切り替えることにした。


それとはまったく別の場所。書斎のような部屋に大きなデスクが置かれており、その前に一人の若い男が座っている。何かを調べているのだろうか、デスクの上には百科事典のような大きな本が開かれている。その横にはノートが開かれ、男は万年筆でそこに何かを書き込んでいる。

「隼人様」

その部屋に、一人の老人が現れた。燕尾服を身にまとい、ぴんと背筋を伸ばし、動きも機敏ではあるが、薄くなった白髪交じりの髪の毛、しわがれた声、そして何より、仙人を思わせる胸にかかるほどの見事な白いあごひげが、その男が老人であることを高らかに述べている。

老人の声に、隼人と呼ばれた青年が書物から顔を上げた。顔の作りは整っているほうだが、目が削いだように鋭く、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。

「じいか」

隼人、というらしい青年は、その老人の姿を認め、そう言い放つ。

「調べ物中でしたかな」

「いや、かまわない。何かあったのか」

「は、お耳に入れておきたいことが」

じいと呼ばれた老人は、そう言って青年のそばまで歩いてくる。その様はまるで、執事とその主人のようだ。

「じいが自ら報告に来るとは、よほどの話のようだな」

そう言いながらも手を止めることなく、青年は万年筆で何かを書き続けている。

「は、例の女が、動き出したという報告がありました」

その瞬間、青年の手がぴたりと止まった。そして、今まで使っていた高級そうな万年筆のキャップをぱちんと閉めてペン皿に置き、老人のほうを向く。

「例の女というのは、常盤という弁護士のことか」

「左様でございます。その常盤めが、今までとまったく関係ないところに、電話をかけておったようです」

そして、老人はMDディスクを取り出して見せた。

「その会話を録音したものです」

老人は、そのMDを持ったまま部屋の端に歩いていく。

そこの壁には、大きなディスプレイをはじめとしたさまざまなオーディオ機器が壁に埋め込まれており、その両端をスピーカーが挟み込んでいる。

老人は、そのMDを挿入口に差し込むと、再生スイッチをオンにする。

「・・・・・・し訳ありません。私、弁護士の常盤花音代と申しますが、少々お時間、よろしいでしょうか?」

しばらく雑音が続いたあと、女の声がスピーカーから聞こえてきた。

その瞬間、青年の眉がぴくりと動いた。そして、まるで声の主が見えているかのような目つきで、そのオーディオ機器をにらみつける。

それはまさしく、弁護士常盤花音代が電話で会話している内容そのものだった。電話線などから直接引っ張っているのではないらしく、相手の声はほとんど聞こえず、常盤本人の声も時々雑音で途切れているが、それでも会話の内容はだいたい掴めるものだった。

「・・・・・・なんという奴だ、後継者を本当に見つけ出してしまうとは」

ほんの数分ほどの会話が終わると、青年は椅子の背もたれに身を投げ出し、天井を見上げてため息をついた。

「あと少しで全て終わるはずだったのに」

「隼人様、いかがいたしましょう」

青年のそばに来た老人が、姿勢を正したままそう聞いてくる。

「・・・・・・マサヒト、か」

「は?」

青年の口から、不意にひとつの名前が出てくる。

「まずは、今の会話に出てきた、マサヒトという奴を探ろう。どこのどいつかは判らんが、おそらくそいつが後継者だ」

体を起こした青年が断言する。

「じい。常盤の監視を続けるように伝えろ。後継者が見つかったならば、常盤は近いうちに必ずそいつと会うはずだ」

「・・・・・・承知しました」

青年の言葉に、若干の間をおいて、軽く会釈をした老人がそう答える。

「不満か?」

「いえ、私は別に」

「無理をするな、言いたいことは判る。俺もこういうやり方は好きじゃない」

そのとき、青年ははじめて年相応の表情を浮かべた。

「だが、これが先代の、親父の遺言だ。その理由が馬鹿げたものであっても、やらなければならないんだ」

それは、誇りの中に自虐が入り混じった、複雑なものだった。

ども、作者です。

最近、こんなのを書いているせいか、うちの電気器具に向かって話しかけることが多くなりました。

人が見ていたら、危ない人に見えるかもしれませんw


では、次回作で遭いましょう。

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