06.季節外れの転校生 その28
「ふぅ。さてと」
鑑定士が終ったので、俺は席を立った。
「あら、将仁さん、もうお休みですか?」
「いや、宿題があるんで、やる前にひとっ風呂浴びようかと思って」
と、ここまで言ってふと思い出す。
「そういえば、風呂はできてるのかね?」
「ちゃぁんと沸いてますよぉ♪」
そう言いながらリビングに顔を出したのは、クリンだった。
クリンはうちのモノたちの中で水周りを得意とする唯一のメンバーなので、特に風呂まわりなど遠慮なく濡れるところはクリンの受け持ちになっているのだ。
「ささ、どうぞこちらへ」
気がついたら、クリンはいつのまにか俺の後ろに回って、背中をぐいぐいと押している。
「お、こ、こら押すな」
「さささ、遠慮なさらずにぃ、うふふっ」
「こらちょっと待てちょっと待てって」
「待ってたらぁ〜、おっふろがさぁめちゃぁいまっすよぉ〜♪」
なんか妙に楽しそうだ。何かいいことでもあったのかな、ちょっとこっちも嬉しくなる。
とそのとき。
「まぁだ懲りてねぇのかおめぇは」
「抜け駆けは許さんと言ったはずだ」
そのクリンの両脇に、俺とテレビを見ていたうちの武闘派コンビのヒビキとシデンが現れた。しかも、半ば呆れ顔だったヒビキに対し、シデンは明らかに怒っている。
その発言で、やっと俺は昨日の夜あったことを思い出した。
二人は、息のあった動きでクリンの腕をがっちりホールドすると、そのクリンを部屋の奥へと引きずっていった。
「ふええええぇぇぇぇ後生ですぅぅぅ離してくださぁぁぁぁいぃぃぃわたしのアイデンティティがあぁぁ」
クリンは情けない悲鳴をあげながらそのままずるずると引きずられ、そしてリビングに隣接する和室へ消えていった。
「まったく、クリンさんにも困ったものでしょう」
その様子を見ていたらしい、人にもどったテルミが、やれやれといった様子でそれを見ていた。
「ねえねえお兄ちゃん、さっきクリンちゃんがヒビキお姉ちゃんとシデンちゃんに引きずられていったけど、何かあったの?」
そこに、レイカの手伝いが終わったらしいケイがひょこっと顔を出す。
テルミから、今あったことの説明を聞くと、案の定むっとした顔になる。
「もー、クリンちゃんったら勝手なことしてぇ。ホントは、ケイだって、お兄ちゃんの背中とか、流してあげたいのに・・・・・・ぶつぶつ・・・・・・」
なんかえらい発言があったような気がするが、聞かなかったことにしよう。
とりあえず、着替えを取りに一旦部屋に戻ることにした。
どうも、作者です。
私だったら、こんなシチュエーションがあったら、二人を押しのけてでもお願いしたいところです。
とはいえ、実際にそれをやってしまったら他のモノから嫌われるのは間違いなしですw
さて。
毎回ネタバレを仕込むのも問題があるので、そろそろこういうあとがきも止めようと思います。
というわけで、次回も騒ぎがあるとだけ言っておきましょうか。
それでは。次回を乞うご期待!