06.季節外れの転校生 その25
「関西に、賀茂の姓を持つ氏族がいるのを、思い出したんです」
「氏族?また昔の貴族とかですか?」
なんか、俺のまわりに、旧家の連中が集まっているなあ。類は友を呼ぶってやつだろうか。
「いいえ、華族ではないのですが、もしかしたらもっと面倒かもしれないのです」
「面倒、ですかぁ?何をされているのですかぁ?」
クリンの言葉に対し、常盤さんは一呼吸置いてから、こう言い切った。
「陰陽師、です」
「おんみょうじぃ?」
みんなが同じように頓狂な声をあげる。今度はまたよくわからないものが出てきたもんだ。
「陰陽師って、あの映画とかで出てくる、安倍清明みたいなのですか?」
俺にしても、そんなイメージしかない。あんな魔法使いみたいなのが、この科学万能時代にいるんだろうか。
「その安倍清明に陰陽道を教えたのが、賀茂一族の賀茂忠行だと伝えられています。そして、賀茂一族は、今もその陰陽道を伝えていると言われているのです」
だが、常盤さんの口調はあくまでも真面目だ。そういえば、俺、最初はこの常盤さんを魔法使いだと疑ったこともあるんだよな。
「オンミョージは、Japanのsorcererライクなpeopleデスよねー?Very unscientific(非科学的)なものがappear(出現)したデース」
「でも、バレンシアさん、そんなことを言ったら、私たちはもっと非科学的でしょう?」
「・・・・・・Ah, そうでシタ」
「まあ、バレンシアが言いたくなるのも判らなくはねぇけどな」
「世の中には、科学では説明し切れぬことなど我らのほかにもいくらでもある」
極端な話、こいつらがいる最大の理由、擬人化の力だって科学では到底証明できないしろものだ。質量保存の法則をはじめ現代物理学を色々と無視している。
しかし、もし賀茂さんが陰陽師だったとして、何がやっかいなのだろうか。映画みたいなことができるとなると、術で天変地異を起こしたり化け物と闘ったりってことになるが、実際にそんなのをやっていたら今頃はテレビや新聞とかが大騒ぎしているはずだ。
それに、俺から見たら、近衛お嬢様のほうがやっかいっつーか面倒な存在だ。美人からアプローチされるのは、ある意味男の夢である。だが、あの高飛車なふるまいは勘弁してほしいし、あのお譲様には迅というとんでもないボディーガードがついている。
アレに比べれば、陰陽師だろうが魔法使いだろうが賀茂さんは別に怖くもなんとも無いからマシだと思う。それにもし賀茂さんが本当にそーゆー類の人だったとしても、敵に回す理由がない。
「じゃあじゃあ、ケイが眠らされたのも、そのおんみょーじの術なのかなぁ?」
「根拠もなく決め付けるのは、短絡的ね。本人が何か術を行使した現場を取り押さえるとか、関連品の所持を確認するとか、そういう決定的な証拠がないと」
「羅盤持っているとかアルか?」
「それは中国の道士や風水士でしょう。陰陽師といえば五芒星や御札が定番でしょう。それで、こんなふうにして、急急如実令、って」
「へぇー、テルミ、詳しいねぇ」
「ふふっ、伊達にテレビをやってはいないでしょう」
「しかし、いまどき五芒星のついたものなど珍しくもなかろう。天神様などでは堂々と掲げておるし、近頃は映画や書物、てれびなどでもよく見られる」
「あー、そういや、文具店とか100円ショップとかにもそんな星がついた消しゴムとか鉛筆とかがあったっスね」
「Pentagram(五芒星)は、Hexagram(六芒星)にcomparison(匹敵)する、worldwide(世界中)でmystic(神秘的)なmarkデスから、suchなmeaningでもvery very popularデース」
だが、モノたちの関心は完全に賀茂さんと陰陽師にあるようだ。別に賀茂さんが陰陽師だろうが何だろうが俺にとっちゃどうでもいい、と思って飯を食っていたのだが。
「陰陽師は、陰陽道という技術体系を基に、暦を見たり託宣を行ったり、場合によっては悪鬼や妖怪を退治したりする、と言われていますが」
「妖怪退治ぃ?このご時世にかい?」
なんかまた変な方向に話が向かっている。まあ、常磐さんを除いたこいつらは、物の化けたものだからそういう意味じゃ人間より妖怪に近いのかも知れないから、警戒したくもなるんだろうが。
「しかし我らがここに存在することは、まごうことなき事実であろう」
「アイヤー、紫電サン、自分のこと妖怪と認めるアルか?」
「あう、でもぉ、私ぃ、妖怪だって言われたら、否定できないですぅ」
「そう言われてしまうと、確かに私たちは普通の人間ではないでしょう。でも」
「人間社会にはちゃんと順応しているわ。人並みの感覚がどの程度なのかも理解しているつもり」
うーん、人を氷付けにしたり街中を車並みのスピードで走り回ったりビルの谷間を飛んだりしている連中が、順応していると言えるのだろうか。
「まあ、もし戦うことになったとしても、こっちは11人もいる。むこうは一人、なんとかなるっスよ」
これは鏡介の弁だ。自分の身を守ろうとするのは、本能に根ざす感情だからなあ。しかし1対11はやりすぎだろう。あの賀茂さんに・・・・・・ちょっと待て。
「おい、11人って、俺や常盤さんも入っているのか?」
「将仁さん、今更無関係を気取ろうったってそうはイカのなんちゃらっスよ」
鏡介。お前は昭和初期のおっさんか。
「ケイは、確かに多分人間じゃないと思うよ。でも、呼んだのはお兄ちゃんでしょ?」
ぬう、ケイ、そーゆー目で見上げるな。それは反則だぞ。
「時がくれば潔く散る覚悟はある。しかし孤立無援での犬死は不本意だ」
散るなんてシデンの奴、大げさだな。特攻隊じゃあるまいし。
「もう、私たちは将仁さんの所有物でしょう。所有物が主を困らせては」
テルミ、お前いつもこうやって自分を殺しているから、酔うとあんなになるんじゃないか?
「あのな、俺は、人数に入れるのはいいがお前らのケンカには巻き込むなって言ってんの。そんなことになったら、俺、確実に死ぬから」
「あっ、その言い方はひどいアル!ワタシは将仁サンにケガなんかさせないアル」
「でも火傷はさせるんじゃないの?中華は相当な火力を使うから」
表情ひとつ変えずに箸を進めるレイカが、さらりと一言。
「むっ!ワタシはそんな抜けてないアル!」
「二人とも、メシの途中でガタガタ騒ぐんじゃねえよ。将仁が困っているだろうが」
ヒビキの言葉に、紅娘ははっとなって俺のほうを見てからしゃがみこんでしまった。
どうも、作者です。
今度は賀茂さんについて、妙な憶測話が飛び出しました。
ちなみに、常盤さんの台詞の中に出てきた安倍清明と賀茂忠行の話は、一応事実だと伝えられている話から持ってきました。
さて、この賀茂さん陰陽師の話ですが、もうちょっと続きます。
では、次回を乞うご期待!