06.季節外れの転校生 その19
クリンの口だった。何を思ったのか、クリンは俺の指をその長い舌でからめ取ると、そのまま自分の口へと引き込んでしまったのだ。
「なっ、何やっているんだお前は!?」
「あううぅ、ごえんらひゃい、れも、らりかひらいとろおうぉっれぇ」
「う、こらしゃべるな、くすぐったい」
指を咥えられたままで喋られると妙にくすぐったい。変な趣味に目覚めるんじゃないだろうか、と思いはじめた矢先、その指からの感触に、俺は違和感を持った。
よく、怪我したときには「つばつけときゃ治る」という。実際、唾液には殺菌作用があるらしい。が、それでも神経を傷つけているわけだから、痛みはあるはず。なぜか、それが無いのだ。あるのは、その表面を撫でまわすような感覚だけ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「はひ?」
クリンの意識がこっちに向いたのを見計らって、クリンが咥えている指を引っ張る。
「ひゅあぁあぁあ、らりひゅるんれふかぁ」
すると、俺の親指が、クリンの舌といっしょににゅるんといった感じで顔を出した。
クリンが舌をひっこめるのを横目に、俺はまだクリンのつばがついている自分の親指を表裏とひっくり返しながら見て、さっきの違和感の理由を探った。
そして、すぐにその理由が分かった。指の傷口からの出血が、止まっていたのだ。それどころか、傷口自体がほとんどふさがっており、指の皮を切った程度になっている。
「どうなってるんだ?」
「え、どうかしたんですかぁ?」
「あ、ああ、傷口が、塞がっている」
「ええぇ!?」
そして指を見せると。クリンのほうも驚いていた。こいつの口の中でおきた現象なのに何があったのかが理解できていないらしい。
念のため、水道の水で洗ってみるが、やはり傷口は塞がっていた。
「あらぁ〜、本当ですねぇ。傷口を舐めると早くなおると言われていますけどぉ、本当になおるものなんですねぇ」
「そうかもしれんが、いくらなんでも早すぎだろう」
そう言いながら、ちょっと考えてみる。うちのモノたちは、大概の場合人の姿になった際に本来無いはずの能力も得ている。もしかしたらこれもそのひとつなのかもな。スポンジと傷とのつながりがいまいちよくわからないが。
「ま、いいか。ケガのほう、ありがとうな」
考えても判らないものは判らないので、さっさと頭を切り替えて傷を塞いでくれたことに礼を言う。
「いいえぇ、この程度でしたらぁ、いくらでもしますよぉ」
クリンは、いつものほわわんとした笑顔で返してくれた。が、すぐにその顔が引きつる。
俺が包丁を再び手にしたからだ。
よっぽど怖いんだな。そんなことを思いながら、俺は梨の皮むきを再開した。
どうも、作者です。
クリンの新たな特殊能力が発揮されたようです。
舐めてケガがなおるというのはなんかエロいような感じがしますなw
さて、次回はバレンシアが登場しますが、そこで彼女がちょっと暴走します。
次回を乞うご期待!