06.季節外れの転校生 その12
「んーーーーっ!かぁーっ」
やっと授業が終わり、針のムシロから解放された俺は、大きく伸びをする。
「なぁ、真田はん」
その俺に、今日一日、ずっと教科書を共有していた賀茂さんが話しかけてきた。
「真田はんって、なんやえらい記録を持ったはると聞いたんやけど、ほんま?」
「そーなんだよ。こいつ、棒高跳びの県大会記録保持者でさぁ」
俺が答える前にヤジローが口を出す。他人の口から言ってもらえると楽だが、多分こいつはそれをネタに賀茂さんと話したいだけだろうな。
「ほんま!?や、どこぞで見たことがあるお人やと思とったんやけど、インターハイやったんやね」
そんな感動の面持ちで言われると照れるんですが。賀茂さんも出ていたのかと思ったが、彼女はギャラリーとして参加したらしい。言われてみれば、今年のインターハイは大阪だったな。
自慢すると自分でも痒くなるが、賛美されると悪い気はしない。
「うちも体動かすんはキライやないけど、個人競技は苦手なんどすわ。な、いっぺん、跳ぶとこを見してくれまへん?」
そして、賀茂さんも興味を持ってくれたらしい。願ったりかなったりだ。ついでにこのまま陸上部に入ってくれたら嬉しいんだが、個人競技は苦手だと言っているし無理かな。でもまあ応援してくれるだけでも・・・・・・
ちゃっちゃらーらー、ちゃららーらー
そのとき、マナーモードにしていたはずの携帯電話が鳴り出した。
おかしいな、いつの間に変わったんだろう。
「ちょっと待って、電話だ」
このままではせっかく知り合った美人を逃してしまう。そんなことを思いながら、俺は受信のスイッチを押した。
「もしもし、真田です」
「お〜に〜い〜ちゃ〜ん〜!?」
出た瞬間、ものすごく恨めしげな声が聞こえる。驚いて思わず吹きだしそうになる。
電話の主は、ケイだった。
「な、なんだ、お前か」
「なんだじゃないよぅ、まったく鼻の下伸ばしちゃってだらしない」
しかもかなり機嫌が悪い。
「あ、こ、これはだな、って別にいいだろ」
「よくないよくない〜っ!お兄ちゃんはだらしなくしちゃいけないの!」
「誰が決めたそんなこと」
「ケイが決めたの!」
「ケイがって、あのな」
そこまで言って、俺は、クラスメイトたちが俺を奇異の目で見ているのに気がついた。
はっとなって、思わず折りたたんでポケットに突っ込む。すると、抗議するかのように間髪を置かずに呼び出し音が、しかも一回り音量が大きく、さらにバイブレーション機能まで活用して騒ぎ出しやがった。
「ったくいい加減にしろよ!」
仕方なく、その携帯を開く。
「あっ!そんなこというの!?じゃあこれから誰かから電話がかかってきても取り次いであげないもん!メールも見せてあげないもん!」
それは、携帯電話としての存在意義を放棄してないか?
「ちょ、ちょっと待て、なんだよそりゃ!?」
「へへーんだ」
思わず顔の前に持ってくると、ケータイの画面に映るケイがあかんべーをしやがった。
どうも、作者です。
放課後になっても安心はできないようです。
まあ、隣には美人の転校生、ポケットにはかわいい妹(?)がいる状況では安心できないのも当然かとw
もし私が同じ状況に置かれたら逃げるかもしれません。
さて、電話のふりをしたままで騒ぐケイですが、どうやってこの場を収めるのでしょうか?
では次回を乞うご期待!「