06.季節外れの転校生 その11
「世の中というのは、狭いものね。こんなところで、西園寺家の人に会えるなんて」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。あの、すいません、話が見えないんですが。
「先生、誰か西園寺の人と知り合いだったんですか?」
それに対する答えは、俺の想像を超えていた。
「真田君。徳大寺家はね、明治のころから、西園寺家と親交があった家系なの」
そう言う先生のまなざしは、不思議なぐらいに穏やかなものだった。言うなれば、成長した親戚の子を見ているような感じだ。
なんでも、日本史の教科書にも載っている明治時代の総理大臣、西園寺公望は、徳大寺家から養子として迎えられた人物なんだそうで、西園寺家と徳大寺家はそれ以来の長い付き合いなのだという。
「知らないと思うけれど、先生がまだ学生だったときには、当主だった静香様に色々とお世話になったのよ」
「・・・・・・静香・・・・・・」
その名前には、聞き覚えがあった。確か、常盤さんが持っていた遺言書にあった名前が、静香だったはずだ。
「・・・・・・多分、真田君の本当のお母様よ」
先生は、懐かしがるような口調でそんなことを言う。
だが、俺は何の実感もなかった。だってそうだろう。いくら生みの親だからって、生まれて一度も会ったことがなけりゃ情も沸くわけがない。それどころか、死んでまで、いや、死んでから俺に迷惑をかけるその西園寺という家に、俺は嫌悪感すら抱いている。
「でも俺は真田将仁です。西園寺じゃありません」
「そうね、無理もないわね。たぶん、私も真田君と同じ立場だったら、素直に受け入れることはできないと思うから」
先生は、俺の発言を聞いて、否定こそしなかったが、一瞬悲しそうな表情になった。古くから親交がある家系だけに、否定されるのはショックらしい。
「あ、いや、別に跡取りがいやだってわけじゃないんですよ」
思わず、そんな無責任なことを言ってしまう。嘘は言っていない。西園寺家の遺産は喉から手が出るぐらい欲しいし、俺の周りで相続に反対するやつもいない。変な親戚が増えたり、金目当てで近づいてくる奴が増えるのも想定内だ。気になることといえば、その遺産を狙って俺らの周りを嗅ぎまわっている奴らがいるらしいことだが、それもまあ資産額から考えれば無理からぬ話だ。
結局のところ、西園寺家の問題はすべて俺の気持ちで解決される問題なのだ。しかし、俺の気持ちは、話を聞いてからすでに何日か過ぎたが、いまだに整理ができていない。ここ数日、イベントがいろいろありすぎてそっちに頭が回っていないというのが実状だ。
「そう、これから決めるのね。じゃあ、決心がついたら、先生に教えてね」
「え?」
「私は、親交がある徳大寺家の一員として、西園寺家がどうなるのかを見届けたいの。どんな結果になっても、文句はないわ」
先生は、俺にそう言った。だが、俺はその言葉に、「西園寺家の消滅は見たくない」という気持ちが込められているのを。うっすらとだが感じた。
どうも、作者です。
担任教師と、意外な関係が発覚しました。
さて、これからどう発展していくのでしょうか?
ちなみに、本文でも記されている西園寺公望氏と徳大寺家のくだりですが、実はここだけフィクションではなかったりします。
最後の元老と呼ばれる明治の大政治家、西園寺公望氏は徳大寺家の次男と生まれ、4歳の時に西園寺家に養子になったのだそうです。
ただ、今でも良家が仲が良いかはわかりません。
さて脱線はこのぐらいにして、次回はやっと放課後になります。
どんなことが起きるのでしょうか?
乞うご期待!