06.季節外れの転校生 その9
「お前もまだ、西園寺との関係は、周りに知られていないのだろう」
迅は、アスリートなはずの俺を半ば引きずりながら走る。本当に同級生か?と疑いたくなるが、問題はそこではない。
「お前、力のこと、なんで知っている?」
こいつらが言う「力」というのは、物部神道の力、つまりは「擬人化」のことだろう。それを知っているのは、常盤さんとりゅう兄、そのりゅう兄から聞いた俺の両親ぐらいのはずだ。
だがそこで、俺はそれ以外にもその力のことを知っている奴がいることに気づいた。引越し前に俺たちを付け狙っていた奴らだ。まさか、こいつは、あの連中の一味なのか?
「それこそが、あのお嬢様がこの学園に来た理由だ。一部の旧華族の間では、西園寺家に伝わるその力は有名らしいからな」
「な、なにが目的だ」
「詳しくは知らん。俺はあのお嬢のボディーガードとして、雇われているだけだ」
なんでも、あのお嬢様がいる近衛家というのは、ぶっちゃけて言えば世界屈指レベルの金持ちなんだそうだ。そして、彼女の身を護るためにつけられたのが、この迅ということらしい。
なんかマンガみたいな話だが、こんなにハイペースで走っても息ひとつ切らせない体力や、意識すらできないほどの速さで俺を組み伏せた技を見せられては、とてもじゃないが冗談だと笑い飛ばせない。ボディーガードだと言われても、素直に納得できてしまう。
が、同時に、ガードする相手からこんな離れたところにいて大丈夫なのか、と突っ込みたくもなった。なにしろ、俺たちは今女子が体育の授業をしている体育館とは、グラウンドをはさんだ反対側を走っているのだ。
ただ、この男だったら、何かあっても一瞬ではせ参じてしまうような気もする。
「だが、あのお嬢様は、物人を問わず欲しいものは財力や権力を駆使して必ず手に入れてきた。そして今の関心は、西園寺家に伝わる、物部神道の力だ」
迅はそう淡々と喋る。嘘か本当かはうかがい知れない。
「お前はそれに、つき合わされているって、ところか?」
ちょっと皮肉のつもりで迅に言葉を投げる。すると、意外な言葉が返ってきた。
「そんなところだ。まったくあのお嬢様のわがままにも困ったもんだよ」
そう言う迅の口元には、わずかに苦笑いが浮かんでいた。そうか、こいつも、苦労しているんだな。俺は迅にちょっとだけ同情してしまった。
「筧。一つだけ、教えてくれ」
3周目があと半分で終わる、というところで、俺は思い切ってあのことを聞いてみた。
「この前、俺たちを、付け回したのは、お前らか?」
返事は、すぐに返ってきた。
「違う。少なくとも俺は、そのようなミッションは与えられていない」
ちょっとだけ納得した。もし迅がそういう命令を受けていたとしたら、少なくともうちのモノたちに捕まるようなことはないだろうからだ。
そうしているうちに、3周のランニングが終わった。
俺はすでにへとへとだが、俺と一緒に走っていた迅のやつは涼しい顔をしてストレッチなんかをしている。
バケモンだ。失礼ながら、迅を見て俺はそう思ってしまった。
どうも、作者です。
おかげさまで、この小説のアクセス数が20万を突破いたしました。
感謝の意と、昨日ネットワークトラブルで投稿できなかったことも合わせまして、今日は2話投稿します。
と言っても、前回の続きで、またも男しか登場しないのですが。
さて、次回ですが。
主人公氏は、なぜかクラス担任に呼び出されます。
何をやらかしたのでしょうか>
次回を乞うご期待!