01.それは1本の電話から始まった その11
「ふぅ、おいしいってこういうことなんだね。いい経験しちゃったな〜」
ケイがニコニコしながら自分のおなかをさする。
「明日はもっと手間がかかるメニューに挑戦してみましょう」
テルミが食器を片付けながらそんなことを口にする。
腹が膨れたせいか、その二人に対する疑問が再びわきあがってくる。
すなわち、なぜ人の姿になったのか、だ。あの弁護士は俺にもとからそういう力があったと言っていたが、正直言って信じられない。だいたい、あいつが本当に弁護士なのかもあやしいもんだ。
そういえば、あいつ、電話口で変な呪文みたいなのを唱えていたな。この21世紀に非科学的な話だが、やっぱり魔法使いなんじゃないか?そいつが弁護士のフリをして俺に魔法をかけ、そして水晶球かなにかで俺を見て笑っているんだ。
それとも、大掛かりなトリックなのか?なんかこれがいちばんありえそうな感じがするが、ただの高校生の俺にそんなドッキリを仕掛けて何の利益があるんだ。
もしかして、アレか?どっかの映画でやってた、人生それ自身がテレビのショーだったとかいうオチなのか?でも、それが本当で俺が監督だったら、こんな疑念が持たれるような展開にはしないぞ?
「お兄ちゃん?どうしたの、そんな難しい顔をして」
「将仁さん、よろしければ、相談に乗りましょう」
俺の悩みは、二人の介入で中断された。
うーん、やっぱり、二人とも何か企んでいるようには見えない。
「なあ、二人とも、どうやって人の姿になったのか、判るか?俺、ぜんぜん判らないんだ」
思い切って聞いてみた。変わった当事者の二人なら、何かわかるかもしれない。
二人は、黙り込んでしまう。これは、何か、言えないような理由でもあるのか?
「・・・・・・ごめんなさい、ケイ、よく判らないの」
「・・・・・・すみません、正直、私にもその瞬間の記憶はあいまいで・・・・・・」
違った。やっぱり判らないのか。
「あ、でも、昔から、モノには魂があると言う考えもあるでしょう。そしてその魂は、精霊となり人の形を成すと。もしかしたら私達は、それぞれのモノに宿る魂が姿をとったものなのかも知れないでしょう」
魂、ねぇ。一番納得したくない理由を持ってきやがったな、こいつ。
「じゃあ、ケイは携帯電話の精で、テルミはプラズマテレビの精ってところか?」
「わぁ、それってかわいいかも」
ケイがはしゃぐ。そんな簡単に納得していいんだろうか。もしかしたら妖怪かもしれないじゃないか。
もし妖怪だとすると。ケイは座敷童ってところか?じゃあテルミは・・・・・・メガネで目の周りが黒いから化け狸とか。
「あら?将仁さん、どうしたのでしょう、私の顔を見て」
「あ、い、いや、なんでもない」
いかん、目が動いていたらしい。何か誤解されてしまいそうだ。
「さ、さて、俺は宿題やるけど、みんなはどうするんだ?風呂にでも入るか?」
言いながら立ち上がると、二人はちょっと変な目でこっちを見た。しまった、女の子相手に風呂なんて言ったら余計に変な目で見られるじゃないか。
「お兄ちゃん?ケイたちがおフロに入れると思うの?」
「へ?」
あれ?予想と違う反応だぞ?
「あのー、将仁さん、私達は二人とも電気製品、それも水に弱い種類でしょう?」
「そうだよぉ。ケイ、データ飛ばしたくないもん」
あ、そういえばそうだった・・・・・・のか?
「でもテルミ、さっきの料理とか食器洗いのときとかに水を使ってなかったか?」
「将仁さん、プラズマテレビでも、濡れた布巾で拭いたぐらいでは壊れないでしょう?」
「それともお兄ちゃん、覗くつもりだったの?あははっ」
うう、言い返されてしまった。確かにちょっとその気はあったが、そううまくいくわけもない。
俺の家のはずなのに、気がついたら弱い立場になってしまった俺は、ちょっと気落ちしながら自分の部屋に引っ込んでいった。