06.季節外れの転校生 その3
「なあ、いよいよだな?」
俺が席に着くなり、後ろの席に座ったシンイチがそんなことを言ってきた。
「は?いよいよって、なんだよ。文化祭か?」
そう答えると、シンイチは一瞬「この人何いってんの?」みたいな顔をしてから、こう言い放った。
「なにって、聞いてなかったのか?今日、転校生がくるって話」
「ムダムダ、ほっとけって興味なさそu
だから」
あ、そういえば。土曜日のホームルームでそんな話があったのを思い出した。なんでも、うちのクラスに、今日、女子が一人転校して来るらしい。その土曜日以降にいろいろなことがありすぎたもんで、頭の中からすっかり吹き飛んでいた。
改めて教室を見回してみると、すでに教室じゅうがその噂でもちきりだった。
「この時期に転入するなんてな」
なんとなく、俺はその転校生が気の毒だった。高校生ってのはまだ未成年、法律上はまだ子供だから、親か保護者の都合で動かされることもある。家庭にはそれぞれ事情があるんだろうが、転校というのはやるほうはあまり楽しいものではない、と聞いたことがある。
だが、クラスを見回すと、俺みたいなことを考えているやつは皆無らしい。
「なんか、すごい美人なんだってよ」
「うちだけじゃなくて、隣のクラスにもすごい美人の転校生が来るんだって」
「すげーなぁ、いーなぁ、お近づきになりたいねえ」
「ふん、たいしたことないわよ。ねえ」
「鼻の下のばしちゃって、だらしない」
なんか男子と女子でテンションのベクトルが違う。特に男子は浮かれモード全開でテンションが高くなっている。まあ、あれだ。この年頃の男連中にとっちゃ、年頃の女の子成分はいくらあってもいいことなのかも知れんが。
「あれ、マサ、お前テンション低いなぁ」
噂話で鼻の下を伸ばしていたヤジローの奴が、真顔に戻ってそんなことを言ってくる。
俺が低いんじゃなくてお前らが高すぎるんだ、別に俺はそういう色気には困っていない、と言いそうになるのをこらえる。今、うちがハーレム状態になっているなんて言ったら殺されて・・・・・・なわけないか。逆におかしくなったと笑われるのがおちだ。
そんなことを考えて黙っていると、やっぱりこいつはミスター朴念仁だからということで話が収束してしまった。あまりに寂しい称号だが、すでにみんなの関心は俺から反れていて反論するヒマもなかった。
あのなあ、俺だって、美人に興味はあるんだぞー、と言おうとしたところで、きーんこーんかーんこーんとチャイムが鳴り、クラスメイトがいっせいに席に着く。
そしてざわざわしているところに、担任の徳大寺先生が入ってきて教壇に立った。
クラス委員の佐伯の号令で挨拶を済ませると、先生が口を開いた。
「皆さん、おはようございます。もう皆さん知っていると思いますが、今日は皆さんに、このクラスに転入して来た人を、紹介します」
その声に、クラスの半分は先生のほう、残り半分は戸口のほうを見る。
ちなみに戸口のほうを見ているのは男ばかりだ。あんまり期待していると、その分落差が大きいぞ、と思いつつ、俺の目もやはり戸口に向いてしまう。
クラス中の男子の視線が集中する中、美人と噂の転校生がからりとドアを開けて入って来た。
どうも、作者です。
転校生の登場だなどとぶち上げておきながら、寸止めしてしまいました。
次回には必ず出てきますので許してください。
というわけで、次回を乞うご期待!