05.連休も大さわぎ その27
「にゃーん」
ネコのようににゃあにゃあ言っているが、これはネコではない。耳も尻尾もヒゲも生えていないし、なによりうちではネコは飼っていない。
そんなことを考えているうちに、そいつは四つんばいのままちょこちょこと近づいてくる。
「ふみゃあぁあん」
そして、俺のひざの上でに乗るとひとつ大きくあくびをすると、そのまま丸まってしまった。
何度も言うがこれはネコではない。酔っ払ったケイだ。さっきは言葉も喋っていたが、今はにゃーとしか言わないし、なんか眠そうに自分の顔をこする仕草もネコっぽい。
なんか可愛くなって頭とか背中とかを撫でてやると、気持ちいいのか喉をごろごろと鳴らす。
ふと、部屋の外から視線を感じる。顔を上げると、こわごわといった感じで、それでもじーっとドアの陰からこっちを覗く顔があった。
「なにしてんだ、シデン?」
「ひうっ!?」
声をかけると、その子はびくっと体を振るわせる。
そんなに入りたいんだったら、と招き入れると、一瞬の硬直の後、恐々と聞き返してくる。
「あ、あの、その、それが、その」
そして、ぷるぷるとケイを指差す。さっき襲い掛かられたのがまだ響いているらしい。
「大丈夫だよ、今は大人しくしているからさ」
俺のひざの上で丸くなっているケイの様子を見てようやく、それでもおっかなびっくりといった足取りで、シデンが部屋に入ってくる。お酌でもしてくれるんだろうか、ビール瓶を丁寧に抱えているんだが、そのままで部屋の隅にちょこんと正座した。
「なにやってんだ?そこじゃ注げないだろ?」
「え、あ、その」
「だから襲わないって、なあケイ」
「にゃあ」
俺のひざの上で丸まったケイが、気だるそうに顔を上げて返事し、また丸まる。
「ほらな」
それを聞いて、シデンはやっと腰を上げた。かと思うと、今度は俺の横に座る。
「どうぞ、上官殿」
そして、丁寧な仕草で俺のグラスにビールを注ぐ。自然に上品なその仕草は、あのいつもえらそうにしているシデンとはとても思えない。
「ん、ありがとう」
注がれたビールを飲みながら、シデンの姿を横目で見る。正座を崩さないのはまあいつもどおりなんだが、控えめなその仕草がとても淑やかで、なんというか、見とれてしまう。
いつもこんなふうに淑やかだったらいいのになぁ。なんて思ってしまう。
「ん、ありがと・・・・・・あれ、お前は?」
ふと見ると、シデンが持っているのはビール瓶だけだ。シデンのグラスは見当たらない。
そのことを聞いてみると、シデンはいきなり恐縮してしまった。
「それは、上官のことを差し置くようなことは、できませんから」
そして照れくさそうに笑う。その品のよい仕草に思わずどきりとしてしまう。
「じゃあ、これ使えよ。俺一人で飲んでいても面白くないしさ」
淑やかなシデンがもっと見たくて、でもケイをひざに乗せて動けない俺は、持っていたグラスを差し出した。
はっとした表情のシデンから瓶を取り上げ、グラスを持たせると、ビールを注ぐ。注がれるごとにシデンの顔がどんどん赤くなっていったような気がするが、まあすでに酔っ払っているんだからこれ以上酔っ払っても同じだろ。
グラスから泡があふれない程度のところでストップすると、シデンはそのグラスを真っ赤になってじっと見つめている。
何かをためらっているようだが、ちょっと促すと、それを一息に飲み干した。
「・・・・・・ご、ご馳走様でした」
そして、グラスを置くと、深々と頭を下げ、そしてほうとため息をついた。
「あの、上官殿・・・・・・これは、その・・・・・・上官殿と、私との、間接キスになりは」
いきなり、シデンが不穏なことを言う。なるほど、そうか、こいつがためらっていたのはそういうことなのか。ませた奴だ。
と、考えた瞬間。
「うにゃああああ!」
俺のひざの上で丸まっていたケイがいきなり目をさまし、シデンに飛び掛ったのだ。
「きゃあああ!」
シデンが逃げ出すと、ケイはそれを追いかけて、部屋を飛び出していく。
またそれと入れ替わりに、テルミとクリンを担いだヒビキが部屋に入ってくる。
「何だい今の?」
「さあ、よっぱらいのすることは判らん」
ヒビキの言葉を受けて、俺はちょっと肩をすくめた。
どうも、作者です。
主だったメンバーがダウンしてしまった中、本当は飲ませちゃいけない連中が生き残っているというのもおかしな話ですが、そこはまあ大目に見てください。
さて、やっと5日目が終わりまして。
次回から6日目が始まります。
では、次話を乞うご期待!