01.それは1本の電話から始まった その1
9月14日 木曜日
ジリジリジリジリ・・・・・・
耳元でジリジリとやかましく鳴る目覚まし時計を引っ叩いて止めると、もっそりと布団から這い出す。
「ふわぁーああ」
こういうとき、誰か起こしてくれる人がいればありがたいんだが、一人暮らしの俺にはそんなもんはいない。いたら怖い。マジ怖い。
アホな考えを頭から追い出し、寝床から出ると、汗で臭くなったシャツを洗濯籠に放りこみ、風呂場に向かう。いつもは朝シャンなんかしないんだが、今朝は妙に蒸し暑くて寝汗を目いっぱいかいてしまったのだ。
素っ裸になるとシャワーをひねり、石鹸をスポンジにこすりつけて泡立て、体を洗う。男の入浴なんか詳細に説明しても面白くもなんとも無いだろうからあとは割愛する。
んで、鏡を見てヒゲの状態を確認し、急いで体を拭くと、さっさと着替える。そして、パンツだけ履いて冷蔵庫を開けると納豆パックと卵を取り出し、お椀にぶち込みかき混ぜる。そして、炊飯器から飯をどんぶりによそうと、それらを持って居間に行き、座卓の横に座り、テレビをつけてニュースを聞きながら、納豆をかき混ぜて飯にぶっかけて、そしてかっ込む。
なんだそりゃという奴もいるだろうが、朝は一日の最初のエネルギーだから食わないといかん。それに納豆は健康にいいって言うだろ?
それから、寝室に戻るとシャツに急いで袖を通し、ズボンを履いてネクタイをしめる。最後に洗面所で口をゆすぐと、部屋に戻りテレビを消して、充電器に差しといた携帯をポケットに突っ込み、そして部屋を出てドアに鍵をかける。
「まさにいおはよー!」
となりのガキがそう言いながら俺の後ろを駆け抜けていく。
「おぅ、遅刻すんなよ!」
軽くそっちを見て挨拶を返す。
俺の名前は「真田将仁」。県立扶桑第一高校の二年生だ。
俺は今、アパートで一人ぐらしをしている。家から学校までが、電車を使っても1時間以上かかるんで、「もっと近いところから通わせてくれ」とむりやり頼みこんで、学校から歩いて15分のアパートに住むことにしたんだ。
今、実家には両親と、あと大学に通っている兄貴が住んでいる。兄貴が実家にいるのは、兄貴の通う大学が、家に近いからだ。
ちなみに実家と言っても本当の親じゃない。なぜなら俺は養子だからだ。両親も、兄貴も、俺と血のつながりはない。俺は、本当の両親の顔も知らない。物心ついたときから、孤児として施設で6歳まで育てられていたからだ。
それだけに、引き取られたときは不安だったが、今では親父もお袋も、そして兄貴も、俺の大切な家族だ。
と、そんな話は止めておこう。朝はただでさえ時間が無いんだ。
アパートの階段を駆け下り、中庭に出て駐輪場の前を通過する。そこには俺のバイクが止めてあるんだが、学校はバイク通学が出来ないのでとりあえず通過する。
そのまま通りに出て学校に向かう。学校の門が見えたところで、移動スピードを走りから歩きに切り替える。腕時計を見るとまだまだ余裕だ。
「うーす」
校門のところで、一人の男と合流する。クラスメイトのシンイチだ。本名・高木進一、出席番号15番、サッカー部所属。電車通学のこいつとは家の方向が逆になるんでこのへんで合流することが多い。
「見たか昨日の試合。あれ惜しかったよなー、前半はリードしていたのに」
「んーでも、まぁありゃしょうがないんじゃない?相手がブラジルだもん、格が違うよ」
マイクラスである2−Bの教室に入り、ホームルームが始まるまでの間、俺はシンイチと、というか、クラス中の男は昨日テレビでやっていたサッカーの試合の話で盛り上がっていた。
俺はサッカーにはあんまり興味が無いが、それでも昨日の試合は思わず見てしまうほど白熱した展開だった。なにしろ、ブラジル側が主力を欠いていたとはいえ、全日本チームが、前半に先制ゴールを決め、しかもブラジルを完全に押さえ込んだままで後半20分ぐらいまで進んでいたんだから。俺だって、ブラジルはサッカーが強いことぐらい知っている。
結局、そこで本気スイッチが入っちゃったブラジルの猛反撃により、全日本は3−1で負けちまったんだが、その後でやっていたスポーツニュースでも「日本大健闘」なんて言っていたし、今の日本サッカーレベルを考えるとよくやったと思う。
だがこいつは違うみたいだ。まあこいつの場合、バリバリのサッカー部員だからサッカーに向ける関心も俺なんかよりずっと強いんだが。
「ブラジルも大人気ないよなー、あんなところでむきになりやがって」
「それが試合ってもんだろ?勝ちってのは勝ち取るもんなんだから、譲ってもらっても意味がないじゃないか。それにブラジルだって格下に負けたくはないだろうし」
「おいっす」
そこに、坊主頭が首を突っ込んできた。クラスメイトのヤジローだ。本名・近江弥次郎、出席番号5番、野球部所属。ちなみに、3年生が引退したためレギュラーに昇格し、出席番号と同じ5番の背番号をゲットしたとこの前自慢していた。
「何の話してんだ」
「決まってんだろ、ゆうべのブラジル戦だよ」
「ふーん」
いまだ興奮冷めやらぬといった感じのシンイチと対称的に、ヤジローは全く冷めた反応だ。
当然といえばまあ当然だ。聞いた話だが、こいつは小学校からずっと野球をやっている、根っからの野球部員だ。だからこいつの場合、野球に向ける情熱が半端ないがそれ以外の球技にはほとんど興味がない。
ちなみに、俺は陸上部に所属していて、自慢だが棒高跳びでの県大会記録を持っている、県下きってのアスリートである。ルックスもそんなひどくはないと思う。んだが、それとこれとは別物らしく、女子には「デリカシーがない」「歩く朴念仁」などと呼ばれて、正直もてたためしがない。
「どーせ勝てなかったんだろ?」
「なに言ってんだ、そりゃ格が違う相手だったけど、いいとこまで行ったんだぜ?次にやりゃあ」
「格が違うって言い訳なんかすっから負けんだ、根性が入ってない証拠だ」
「根性で勝てりゃ世話ないって、強い相手は強いって認めなきゃ」
なんか二人のやり取りが禅問答みたいになってきたところで、チャイムが鳴る。
「起立!礼!おはようございまーす!」
「おはようございます、皆さん」
委員長の佐伯の号令で挨拶が行われると、うちの担任が出席をとりはじめる。
うちの担任、徳大寺伊織は華族の末裔だそうで、その上品なルックスと、おっとりしていてひいきをしない性格から男女問わず人気がある。担当は古文・漢文で、この先生のおかげで古文や漢文が好きになった生徒は結構いるようだ。
ちなみに、目下の悩みは「胸が小さいこと」だそうで、過去自分が担任したクラスの女子全員よりもバストが無かったためにショックを受け、以来ブラの下にパットを3枚重ねて入れている、という噂がある。ホントかどうかは知らんが、でも胸がないのはスーツの上からでもわかる。
「二十四節気でいう白露もすぎました。暑さもだいぶ和らいで来ましたので、夏休み気分はそろそろ卒業して、勉強に身を入れていきましょうね」
古文の先生らしく、暦を交えて話を締める。
そして、先生が出て行ってから次の授業が始まるまでの間、ざわざわーっと教室が騒ぎ始める。
さて。一時間目は日本史だ。というわけで俺は机の中から教科書とノートと資料集を引っ張り出して授業に挑む戦闘体制を整えることにした。
はじめまして。これが初投稿になる、剣崎武興です。
実は、ネット上で自筆小説を発表するのは初めてではなくて、自分のHPを作ったときにそこに載せたのが初めてなんですね。
もっとも、開いて3年ほどたちますがまだ訪問者が2000人にならないようなページだし、ペンネームも違うので、知らんぞという人のほうが間違いなく多いと思います。
ついでに、作品も違います(笑)
ネタとしては、2ちゃんねるなんかではありがちで、でも小説としてはあまり見かけない擬人化モノです。
ここから先、もっと擬人化が出てきて賑やかになりますので、生暖かい目で見守ってください。