サンタになった子供たち
あなたの周りで、こんなことが起こった経験はありませんか?
近所の家。そこに子供が住んでいます。
その子は、あなたが学校や会社に行く途中で見かけるだけかもしれません。
ひょっとしたら、仲良く遊ぶ友達ということもあるでしょう。
そういう風に見知った子供が、ある日突然いなくなるのです。
突然と言っても、あなたはしばらく気づかないかもしれません。
何しろ親は子供がいなくなったというのに、近所の人に尋ねることも、捜索願いを出すこともしないのですから。
そしてしばらくすると、残った家族もいつの間にかどこかへ行ってしまうのです。
あとは近所の人たちが噂をするくらい。それもすぐに飽きて、いなくなった子供のことは忘れられてしまいます。
こうした出来事が日々、私たちの身近で気づかないうちに起こっています。
そしてたくさんの子供たちが、ひっそりと姿を消しているのです。
子供たちはどこへ行ったのでしょうか。
異常性癖をもつ悪い大人に誘拐された?
それともSNSで知り合った、顔を見たこともない何者かの家に行って監禁されているのでは?
大丈夫。心配しないでください。
だって子供たちを連れて行ったのは、他でもない、サンタさんなのです。
皆さんもよく知っている通り、サンタさんは12月24日、クリスマスイブに子供たちへプレゼントを配ります。
でもサンタさんは、その日だけ働くわけではありません。
世界中にいる子供たちの願いを聞き、1年間かけて準備をするのです。
簡単に作れるオモチャならいいのですが、中にはサンタさんでも手に入れるのが難しい物があります。
そこで、ある条件に適した子供たちに協力してもらうのです。
そうです。消えた子供たちは、サンタさんと一緒にプレゼントを届ける存在――つまりはサンタさんになっていたのです。
世の中には色々な子供がいます。
裕福な家に生まれて何不自由なく暮らす子。
貧しいけれど、親の愛情をいっぱい受けてたくましく育つ子。
両親の期待と偏愛を一身に背負い、自分の本心を隠して笑顔を作る子。
大人から虐待され、あるいは育児放棄されて、絶望の中でただ死を待つ子。
障害があるけれど周囲の人たちに助けられ頑張って生きる子。
五体満足だけれど誰にも愛されず孤独に涙する子。
銃弾や爆弾で頭を吹き飛ばされる子。
病気で死ぬ子。飢えて死ぬ子。事故で死ぬ子。
特別な困難もなく平凡に生きる子。
世界には色々な子供たちがいて、一人ひとりが自分だけの願いを持っています。
でもサンタになった子供たちがプレゼントを贈るのは、中でも特定の子供たちです。
それは、家がお金持ちだけれど内臓に疾患があり、このままでは長く生きられない子です。
人間は臓器移植によって、病気を治したり健康を増進したりできます。
しかし誰でもいいわけではありません。
拒絶反応が出ない臓器をもつ人を探す必要があります。
それは、砂漠の中で一滴の涙を見つけるくらい難しいことです。
ましてや子供の臓器提供者となれば、なおさらです。
そこでサンタさんの出番です。
サンタさんは適合する子供が見つかれば、その子の家へ迎えに行きます。
そして保護者に幾つかの書類へサインしてもらい、振込用の口座番号も教えてもらいます。
子供はサンタさんのお手伝いができると聞いて大喜び。サンタさんに手を引かれて、病気の子供の許へ向かいます。
そして病気で苦しむ子に、かけがえのないプレゼントを贈るのです。
これが、サンタになった子供のお話です。
もし皆さんの周りでいつの間にか子供がいなくなったら、このお話を思い出してみてください。
きっとその子はサンタになって、病気の子供へプレゼントを届けていることでしょう。
そしてサンタになった子供たちは、プレゼントを贈った子供の中で、ずっと生き続けるのです。
(おしまい)