見てる
「この間のマンションのエレベーターは相田君案内行くのが怖くて止めたらしいですよ。」
前下君はたいして気にしていないけれど、相田君はかなりビビりだったみたい。
「確かにお客さんと一緒にエレベーター乗ってあれじゃ売れないもんね。」
でも、営業はこんな時に作戦があるのですが、これはお仕事の切り返し術みたいな事ですのでお教えするのは控えておきます。
だいたい月曜日は朝広告関係の物件を出したりして、土日に契約した案件を銀行の住宅ローンに持っていったりバタバタしています。
前下君と一緒に広告に使用する物件の写真を撮りに行く事になった。
「今回は20件位だけど、下見の時は場所が分かればいいんだけれど、今回はいろいろ見栄えからいくよっ!」
僕の微妙な説明で物件のコースを決めて一気に回る事にする。
暗くなる前に終らないと駄目だから早めに行くのが鉄則。
「こんな古い家もですか?昭和の造りだなぁ…」
前下君と最初に到着したのは、会社から一番近い築38年の中古の空き家。
「これは業者が持っているから中はリフォームしているみたいだよ。きょうは入れないけど。」
全ての業者が持っている物件がリフォームしているとは限らないが、住んでいる家よりは融通が利きます。
「2階建ての駅徒歩5分、南道路ってだけで問合せくるから!」
キャッチフレーズを考えながらの写真撮影中で幾つかのアングルから撮る。
撮り終わり車中で確認してみると
「林さん、右側の出窓の所をちょっと見てくださいよ。」
「またまた~…………何この人。」
明らかに誰か此方を見ている。2階の室内でだ。
「鍵は空いて無かったよね。物件の横にキーボックスがあるからちょっと業者に聞いてみるよ。」
業者さんには一応案内で今週末行きたいので、って事にして室内に入る。
「外観より中は綺麗ですね!電気が通ってないのが残念だ。」
等と話ながら2人で2階の先程の出窓の部屋に来た。
「ここに居たみたいだけど、出窓の高さからとこの写真でおかしいのは顔だけなんだよ。見れば分かるけれど胸部まで写っている方が普通なのを隠れて顔を台に乗せている感じだよね。生首みたいに。」
僕は周囲を見回すが物も無いガランとした部屋。
「たまにこっそり住んでる奴いるから怪しいけど、取り合えず見た感じは何もないって事で。」
僕達は外に出た。
「これ、どうします?課長に見せます?」
「一応見せて見よう。誰か本当に居たのかも知れないし。」
予定の物件写真を午前中で撮り終え、会社に戻ってきた。
「課長!!大変!!!」
前下君はちょっと大袈裟に言いながら課長の座席に。
「お前らの大変は怖いんだよなぁ。また何か写ったのか??」
「それなんですよ!見てください。」
????
「林さん、消して無いですよね。」
「何も触ってないもん。前下君に任せたから。」
「確か2番目だと思ったのですけど…………居ないんですよ。3枚正面から撮ったの全部あるのですが…………顔だけの人が写ってる場所に顔が無いんです。」
結局PCにおとして見ても居なくなっていたので、気のせいとの事で、話を終わらせた。
でも、本当にあの時此方を見ている人がいましたよ。