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絶望のなかへ

作者: 稲嶺るーや

光り輝く世界で暮らしていた一人の男。

友にも恵まれ全てが幸福に包まれていた。

そんなある日、男の生活は一変した。

男はいつもの通り嫌なことがあり闇の中に入った。普段なら落ちても誰かがすぐ助け出してくれる、光り輝く明るい世界に戻ることができる。

男はいつもの通り手が差し伸べられるのを待った。

だが、いつまで経っても手が差し伸べられない。

男は不審に思い、光の方へと呼びかけた。


「また落ちてしまった!誰か、助けてくれ!」


返答はない。

光の中からは笑い声と微かに話し声も聞こえる。男は耳を澄ましその声を聞いた。


「あいつまた落ちたのかよ」

「確かになぁ!しかも助け呼んでるぜ?」

「はははっ!誰も助けねぇっつーの!」

「そうそう、前は仕方なく助けてやってただけって気づかねぇのかな?」


ギャハハと笑い声と話し声が遠ざかっていった。

なん…で、男は絶望した。友だと思っていた人に裏切られた…。


闇とは人の憎悪、負の感情が入り混じるところ。

光とは人の楽しみなど、プラスの感情が入り混じるところ。

男の周りでは先程の四人の声、そして今まであった嫌なことの声が男を責め立てる。


「誰か!いないのか!助けてくれ!」


叫んでも叫んでも手が差し伸べられることはない。

男はさらに深い闇に落ち、そして絶望した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


男が闇の中に落ちてどれくらいの月日が経っただろう。ある日、一本の紐が白く輝く紐が降りてきた。

男は思った。この紐は誰かが俺を助けるために降ろしてくれたのか…と。

そう思うといてもたってもいられなくなり、その紐を持ちクイッと引っ張った。

するとクンッと体が光の方へと引き上げられていく。男は久方ぶりに光の中へ戻ったのだ。眩い輝きに目が眩む。少し時間を置いて目が慣れると前に人が立っているのがわかった。

男は目の前の人に問いかけた。


「君が俺を助けてくれたのか?」


男が問うとコクンと小さく目の前の人は頷いた。


「ありがとう!本当にありがとう!」


男は泣きながら目の前の人の手を取り喜んで礼を言った。そして決めた。彼について行こうと…。


そこから先はおわかりになるだろう。

男は自分を助けてくれた彼と共に過ごした。

彼と共に過ごす時間は闇の中にいた男にとって幸せのなにものでも無かった。

男は喜びを、幸せを噛み締めた。

しかし、そんな生活も長くは続かなかった。


ある日、男はいつもの通り彼と共にいた。すると彼が男に問うた。


「なぁ、なんでお前俺と一緒にいるんだ?」


え?と男は言った。


「お前が俺を助けてくれたから、その恩返しっていうか…」


男がそう言うと彼は顔を顰めて言った。


「あのさ、はっきり言って迷惑なんだけど。お前は俺といて楽しいって思うかもしれないけど俺は全然楽しくないんだけど。むしろ不幸なんだけど。でも闇の中には行きたくないし。言えずにいたんだけどさ。」


あー、言えてスッキリしたー!と彼は言った。


なんで…あんなに楽しそうだったじゃないか…。男は再び絶望した。そして前よりもさらに深い闇へと落ちていった。


なんで…あんなに笑顔だったのに、なんで…!

男は前よりも遠くなった光を見て泣いた。

それから毎日のように泣いた。涙が枯れ果てるまで泣いた………。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


涙が枯れ果て、もう何日経っただろう。

ある日、光から手が差し伸べられた。

男は二度と同じことは繰り返さないと手を叩こうとした。するといきなり腕を掴まれ、光の中へと強制的に引き上げられたのだ。

男が光の中に着くと手の主は男を強く抱き締め、言った。


「お前の苦しみを俺にも分けて欲しい」


手の主は言った。だが男は二度も裏切られ、人間という存在を信用できなくなっていた。

が、ここで拒絶するとあの闇の中へ逆戻りだ。と思い頷いた。だが信用はしなかった。

男は手の主と共に過ごした。

だがやはり手の主も男を闇へと突き落とした。

男はまたかと思いながら闇へと落ちていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


闇の中では永遠と同じことが繰り返される。

ある日男は思った。


「この中でも楽しく暮らすことができるんじゃないだろうか」


それから男の精神は狂っていった。

人の絶望を見て笑い、闇の中にある負の感情を食べ暮らした。

男は闇の中に捨てたのだ。自分の心を…。

光の中に自分の居場所はない。ここで楽しく暮らそう。自分の居場所は闇の中だったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんで…!なんでなんだよ!あんなに、あんなに…!」


闇の中に男の子が来た。友に裏切られ、闇に身を投じた男の子が。

光の方を見る男の子にひとつの影が歩み寄る。

そして、後ろから声をかけて言った。


「やぁ、君をここに住んでみるかい?」

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